眼瞼痙攣

薬剤性眼瞼痙攣とは

清澤のコメント:この記事では眼瞼痙攣の中でも特に「薬剤性眼瞼痙攣」を解説した記事が「日本の眼科92:5号 (2021) 眼科医の手引 <984>」に採録されました。眼科医の皆様及び薬剤性眼瞼痙攣を患う方々にも眼を通して戴きたいと思い、ここ清澤眼科通信に再度採録させていただきます。著者の鈴木幸久氏は東京医科歯科大学および東京都健康長寿医療センターで眼疾患の脳内糖代謝変化を研究している私の共同研究者です。

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はじめに:

眼瞼痙撃は、顔面上部の筋の不随意運動を特徴とし、局所性ジストニア(focal dystonia)という疾患群に分類されている。眼瞼痙攣には,誘因なく発症する本態性眼瞼痙撃の他に、ベンゾジアゼビン関連薬など神経精神科系薬の長期投与に伴って発症する薬剤性眼瞼痙撃、パーキンソン病、進行性核上麻痺など神経内科系疾患に続発する症候性眼瞼痙攣が知られている。ここでは、薬剤性眼瞼痙撃の特徴や薬剤性眼瞼痙撃を誘発する可能性のある薬剤について述べる。

薬剤性眼瞼痙攣の病態

眼瞼痙撃を含むジストニアの発症メカニズムを説明するためにある程度支持されているものとして,基底核-視床-大脳皮質路(bsal gaglia-thalamocortical circuit)を介したGABA 抑制系の賦活化の仮説がある(図1)。眼瞼痙撃患者では,この回路内の視床、補足運動野、視床下核の活動性が充進していると推測され,これらの部位の赋活化により眼輪筋の不随意運動が引き起こされていると考えられる1)。ベンゾジアゼピン関連薬はGABA系アゴニストとしてふるまうため、短期的には、基底核-視床-大脳皮質回路の活性化を抑制し、眼瞼痙撃に対しては治療薬として作用する。しかし、神経受容体にそのアゴニストを慢性的に暴露させると、受容体のdown-regulationにより、受容体とアゴニストとの親和性の低下や受容体自体の減少が生じ、基底核-視床-大脳皮質回路の賦活化を招き、眼瞼痙撃が発症することがあると考えられる2)

図1 眼瞼痙撃患者における基底核一視床一大脳皮質回路(図の採録を省略)

视床、補足運動野、線条体、外淡蒼球、視床下核などが基底核-視床-大脳皮質ループを形成し,眼瞼痕撃を含むジストニアの発症に関連していると予想される。+は興奮性。ーは抑制性の投射を示す。眼瞼痙攣患者では。視床。線条体,補足運動野などの賦活化がみられることから、ループ全体が活性化していると考えられる。(文献4)より改变:スキャンの都合で、ここでは図1採録を省略しました。清澤)

薬剤性眼瞼痙攣の診断

まずは、瞬目誘発テスト(軽瞬・速隣・強瞬)3)を施行するなどして、眼瞼痙攣かどうかを診断する。羞明の有無は眼瞼痙撃を診断する上での一助になる。次に,薬剤性眼瞼痙攣を誘発する可能性のある薬剤の服用歴について注意深く問診する。薬剤性眼瞼痙撃の原因となりうる神経精神科系薬には、ブロチゾラム、エチゾラムなどのベンゾジアゼビン関連薬をはじめ、抗うつ薬として選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、パーキンソン病治療として抗コリン薬などがあり(表1)、これらの薬剤を2か月以上継続した場合に発症する可能性がある4)。日本では,ベンゾジアゼビン関連薬が原因となることが多いと報告されている 5)。

表1 薬剤性眼瞼痙の原因となりうる神経精神科系薬

以下に系統:薬剤名(一般名):用途の順に示す

・ベンゾジアゼピン関連薬として

ペンゾジアゼビン系薬;プロチゾラム、フルニトラゼバム:抗不安、睡眠導入

チエノジアゼビン系薬:エチゾラム:抗不安

非ペンゾジアゼビン系薬;ゾルピデム:睡眠導入

・選択的セロトニン再取り込み阻害萊(SSRI):バロキセチン:抗うつ

・セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI):ミルナシプラン,デュロキセチン:抗うつ

・抗コリン薬;アーテン:パーキンソン病治療

・フェノチアジン系薬:クロルプロマジン:抗精神病

・ベンザミド系薬:スルピリド:抗精神病。抗うつ

薬剤性眼瞼痙攀の臨床的特徴

薬剤性眼瞼痙撃患者では,本態性眼瞼痙撃と同様に差明を訴えることが多く、ボッリヌス毒素治療の有効性も本態性眼瞼痙撃と有意差はないと報告されている2)。薬剤性眼瞼痙撃における特徴の中で最も重要なものは.原因薬の中止により症状の改善がみられる可能性があることである。Wakakuraは, 薬剤性眼瞼痙186例について,ベンゾジアゼピン関連薬を中心に原因薬の中止を試みた。132例で原因薬の中止に成功し.そのうち93例で眼瞼痙の症状の改善がみられたと報告している。しかし, 186例中54例は原因薬の中止が上手くいかず、39例は原因薬の中止には成功したものの,眼瞼痙撃の症状は改善しなかった。中枢性ベンゾジアゼピン受客体のdown-regulation は可逆的であると推測されており、原因薬の中止によって体内の神経受容体に結合するアゴニストの減少が続くと、受容体とアゴニストとの親和性の回復や受容体自体の増加が起こってくると予想される。

しかし,ベンゾジアゼビン関連薬の中止により、症状の再燃、投与前よりも症状が悪化する班長減少や離脱症状(睡眠障害、不安、筋肉痛、振戰、頭痛、嘔気、体重减少、発汗霧視、変视症、感觉過敏、感覚鈍麻、動揺感など)が起こる可能性があり、原因薬の減量・中止が困難あることも多い。そのため、原因薬を中止または減量する場合には、処方医の協力のもと、慎重に行うことが必要である。

[文 献]

1) Suzuki Y, Mizoguchi S, Kiyosawa M, et al: Glucose hypermetabolism in the thalamus of patients with essential blepharospasm. J Neurol 254 : 890-896, 2007.

2) Suzuki Y, Kiyosawa M. Wakakura M. et al: Glucose hypermetabolism in the thalamus of patients with drug-induced blepharospasm. Neuroscience 263 : 240-249, 2014.

3)若倉雅登:眼瞼ジストニア(眼瞼けいれん)の概念と診断,眼科50:895-901,2008.

4) Mauriello JA Jr. Carbonaro P. Dhillon S, et al: Drug-associated facial dyskinesia-a study of 238 patients. J Neuroophthalmol 18: 153-157, 1998

5) Wakakura M. Yamagami A. Iwasa M: Blepharo-spasm in Japan: A clinical observational study from a large referral hospital in Tokyo. Neuroophthalmology 42: 275-283. 2018

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