ハンフリー視野検査を受けたあと「初回の結果がすごく悪いと言われて不安になった」という声をよく聞きます。実は、これは異常ではなく「練習効果(ラーニング・エフェクト)」と呼ばれる、よく知られた現象です。
1.ハンフリー視野検査は「慣れ」が大事な検査です
ハンフリー視野検査は、暗い部屋で中心の印をじっと見つめながら、周りにチカッと光が出たときだけボタンを押す検査です。
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どのくらいの明るさなら「見えた」と感じるか
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視野のどの場所で感度が落ちているか
を調べる、とても繊細な「心理テスト」に近い検査です。
初めて受けるときは、
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検査のリズムがつかめない
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どの程度の光で押せばいいのか迷う
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緊張してまばたきや視線が安定しない
といった理由で、本来の実力より悪い結果が出がちです。
これが「練習効果」です。
2.練習効果では、何がどう良くなるのか?
多くの研究で、経験のない人が数回視野検査を繰り返すと、結果が良く安定してくることが示されています。
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緑内障疑い患者に連続して視野検査を行うと、
2回目・3回目で平均感度(MD)が改善し、視野欠損が軽く出ることが報告されています。PubMed -
自動視野計の練習効果についてまとめた報告では、
「初回の視野は真の病気の程度より“悪く”出やすい」とされています。PubMed -
新しいタイプのハンフリーMatrix視野でも、
初回のMDが一番悪く、その後2~3回で約2~3 dB良くなるという結果が示されています。PubMed -
緑内障患者や健常人を対象とした最近の研究でも、
視野検査を繰り返すことで、誤反応(偽陽性・偽陰性)や見落としが減り、信頼性が上がることが報告されています。PMC+1
つまり、「1回目の結果が悪い=そこまで病気が進んでいる」とは限らないのです。
3.なぜ練習効果が起こるのか?
主な理由は次の3つです。
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操作に慣れていない
ボタンを押すタイミングに戸惑い、「見えたかも?」と思っても押せないことがあります。 -
検査のペースがわからない
光が出る間隔は不規則です。
「さっき出たから、次もそろそろだろう」などと予測してしまうと、
見えていないのに押してしまう(偽陽性)、
逆に構え過ぎて押し遅れる(偽陰性)ことが起こります。 -
緊張・疲労
初回はどうしても緊張しますし、
体勢がぎこちないと早く疲れてしまい、後半の反応が悪くなりがちです。
数回経験するうちに、
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「このくらいの光なら押せばいい」
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「見えないときは押さなくていい」
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「まばたきしてもかまわない」
といった感覚がつかめ、検査の“コツ”を体が覚えていきます。
4.医師はどう結果を評価しているのか?
視野検査には、「信頼性指標」と呼ばれるチェック項目があります。
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固視ずれ(まっすぐ見ていられたか)
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偽陽性(見えないはずのところで押してしまった回数)
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偽陰性(見えるはずの明るさを押しそこねた回数)
などを見て、「この視野結果をどこまで信用できるか」を判断します。Aao Journal+1
そのため実際の診療では、
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**初回の視野検査は「練習」「たたき台」**ととらえる
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2回目、3回目の結果と合わせて、
時系列で変化を見ながら診断・治療方針を決める
という考え方をしています。
診察室で医師が「もう1回、視野を取りましょう」と言うのは、
決して疑っているのではなく、より正確なデータを集めるためなのです。
5.患者さんにお願いしたいポイント
少しでも良い検査結果を得るために、次の点を意識してみてください。
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中心の印をじっと見る(周りの光を追わない)
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見えたと感じたら、ためらわずにボタンを押す
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見えなかったら無理に押さない(「外れてもいい」と思ってOK)
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まばたきは我慢しない(目が乾くと、かえって見づらくなります)
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検査中に不安や体勢のつらさがあれば、遠慮なくスタッフに伝える
これらを守ることで、短時間で質の良い視野検査ができるようになります。
6.まとめ:初回の結果に落ち込みすぎないでください
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ハンフリー視野検査には、**誰にでも起こる「練習効果」**があります。
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多くの研究で、最初の1~2回は視野が実際より悪く出ることが示されています。PubMed+2PubMed+2
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医師は、信頼性指標や複数回の結果を総合して、緑内障などの診断・経過観察を行っています。
ですから、**「最初の視野が悪かった=急に悪化した」**と考えて
過度に心配する必要はありません。
当院では、検査に慣れていただきながら、
長い目で視野の変化を追い、治療方針を一緒に考えていきます。
わからないことや不安な点があれば、どうぞ遠慮なくお尋ねください。



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