米国医学生ローンの負担増が深刻化 ― 新法「OBBBA」がもたらす衝撃
(JAMA Research Letter 解説)
アメリカでは医学部進学に必要な費用が世界で最も高い水準にあり、授業料だけでなく住居費や教材費まで含めた「年間総費用」は 2008 年の約 5.1 万ドルから 2020 年には 7.1 万ドルへと 38%も増加しました。物価上昇を調整しても高止まりしており、医学生の多くが連邦政府のローンに頼って進学してきました。これまでは Graduate PLUS ローンにより、医学部に必要な総額を実質的に借りることが可能でしたが、2025 年に施行された「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法(OBBBA)」が状況を一変させました。
新法では、医学生が利用できる連邦ローンに年間 5 万ドル、生涯 20 万ドルという上限が設定され、Graduate PLUS ローンは廃止されました。さらに返済免除制度や救済策も縮小されるため、これまで連邦ローンのみで学費を賄えていた学生でも、今後は金利の高い民間ローンを追加せざるを得なくなります。
JAMA誌に掲載された研究では、2020 年の時点で医学生の 47%が Graduate PLUS ローンを利用し、40%が年間 5 万ドルを超える額を借り、14%は生涯で 20 万ドル以上の連邦ローンを抱えていたと報告されました。今回のローン上限は多くの学生の実際の借入額を下回るため、ほぼ半数が直接的に制限を受ける計算になります。特に州外から医学部へ進学する学生や、世帯収入が低い学生ほど高額のローンに依存しており、新法の影響を強く受けやすいことが示されました。
ローン制限が厳しくなることで、金利の高い民間ローンへ移行する学生が増え、収入が比較的低いプライマリケア領域を敬遠する動きが加速する可能性があります。また、進学そのものを諦める層が増加し、もともと代表性の低い少数派学生(Minority students)への影響が大きくなることも懸念されています。こうした変化は将来的に医師不足や診療領域の偏在を助長し、アメリカの医師養成システム全体に長期的な影響を及ぼす可能性があります。研究者は、学費の抑制や返済免除制度の拡充など、医学教育へのアクセスを維持する政策の必要性を指摘しています。
出典:Ramesh T, Kadakia KT, Liu M. US Medical Student Federal Loan… JAMA. Published online November 26, 2025. DOI:10.1001/JAMA.2025.20905
【院長コメント】
日本の医学生が抱える「貸与奨学金」との違い
日本でも私立医学部の学費は高額で、6 年間で 2,000〜4,000 万円に達する大学が多く、学生の多くが日本学生支援機構(JASSO)の第二種奨学金や、自治体や医療機関が提供する地域枠奨学金を利用しています。日本と米国で最も異なる点は、奨学金の金利が非常に低いこと(年 0.3〜1%程度)に加え、特定地域で一定期間勤務すると返済が免除される制度が広く整備されている点です。また、奨学金の貸与上限は存在するものの、アメリカのように実際の医学部総費用を大きく下回る厳しい制限ではありません。
とはいえ、卒業後の返済総額が 1,500〜2,500 万円に達する例も多く、医学生の家計負担は決して軽くありません。特に地域枠奨学金は、返還免除と引き換えに勤務義務が長期間に及び、進路選択の自由が制限されてしまうという問題点も指摘されています。米国のように高金利の民間ローンへ移行せざるを得ない状況ではありませんが、日本でも学費高騰は続いており、今後は経済的負担の可視化と返済免除制度のさらなる充実が重要になると考えています。



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