片頭痛

[No.192] シャルル・ボネ症候群(Charles Bonnet syndrome):再々訪

シャルルボネ症候群:再々訪
「追記:鈴木幸久先生がこのシャルル・ボネ症候群の脳糖代謝をPETで調べる臨床研究を東京都健康長寿研究所のPET室で行っているので(無料で)検査を受ける希望の患者さんが居たら紹介してほしいという事を2022年の年賀状で伝えてきました。希望者がおいででしたら、ご家族同伴で自由が丘清澤眼科を受診してお伝えください。紹介を繋げたいと思います。2022年1月6日清澤追伸」

二本松病院の平松類先生がシャルル・ボネ症候群の解りやすい解説をネット記事(「失明しそうな人」だけに現れる不思議な症状)に発表されていました。この疾患は両眼の視覚を失い掛けた患者さんが見る幻視なのですが、目の前にハンカチがひらひらと翻るというようなパターンのものと、小人や子犬が自分の周りを走り回ると言ったパターンを示すものがあるようです。下の動画の演者オリバー・サックスはその多くの著作(例えば『レナードの朝』(同名の映画の原著、映画は実話である原著に基づく創作)でもよく知られた解剖学者です。この動画では、非常に解りやすくこの疾患シャルル・ボネ症候群を説明しています。また、彼の人間性に触れることのできる動画になっています。一度ネット記事を記載しても、その記事は時間の波の彼方にやがて埋もれて見えなくなってしまいます。医師の方々にも、患者さんの家族の方にも是非一度は見ていただきたい動画作品になっていますので、再々ですが採録します。

  ーーーーーーーーーー
imagesYBIKGXAD
シャルルボネ症候群というのは両眼の視力を失った患者さんが経験する幻視です。ハンカチ状の模様のようなものを見ることもあれば、人の形をした映像が失われた視野の中で動き回るというものもあるようです。この現象はそれほど希なものではなく、両眼を失明した患者の1割ほどもの人が経験するとこの動画では言っています。しかし「気が狂った」とか「精神病になった」と思われることを嫌って医師には伝えない人も多いそうです。清澤もすでに何人かのシャルルボネ症候群の患者さんを拝見しています。その中には古典的な眼球から視神経の疾患で視力を失った患者さんもいれば、両側の視覚領の病気で視力を失った患者さんもいます。ご家族がその症候群ではないかという方がおいででしたらご受診をお勧めください。脳の機能画像(PET)までを調べて、詳しい説明が出来ようかと思います。その際にはどのような幻覚がどのような頻度で起きたのかを、周りの方が聞き取って持参いただけると大変参考になります。本日もシャルルボネ症候群の患者さんが来院されました。この患者さんとご家族には、オリバー・サックス の「幻覚が解き明かす人間のマインド」というNHKでも放映された動画を診る事をお勧めしましたが、調べてみたらその日本語要約も乗せているページがありました、丸写しにするのも気が引けますのでそこから主要な目次だけ引用します。
(http://kaihooo.com/charles-bonnet-syndrome/)

(第一部)
オリバー・サックス 「幻覚が解き明かす人間のマインド」
2013年10月6日

「脳も精神も正常。シャルルボネ症候群なだけ。幻覚の原因は失明による脳の視覚部分の活動過多だよ」サックスは語りかけます。ここでは、180万ビューを超える Elyn Saks のTED講演を訳し、幻覚症状にも多様な段階があることについて理解する:としています。

要約

神経科医であり作家でもあるオリバー・サックスがシャルル・ボネ症候群 ‐視覚障害者に生じる正常人が経験する幻覚症状の一種 ‐について語ります。自身の患者が体験した幻覚を心温まる細部に渡って描写しながら、あまり社会には知られていないこの現象の生態学へと案内します。

1 幻覚は外から現れて現実と区別がつきにくい
2 特殊な幻視を見るようになった盲目の女性
3 東洋風の服を着た人たちが階段を上り下りしている…夢ではなく映画のよう
4 ユーモアのある女性なんです
5 脳も精神も正常。シャルルボネ症候群ですよ
6 狂ってもボケてもいない。シャルルボネ症候群なだけ

それを聞いて彼女は安心し 深刻な問題ではないことにホッとした。そして むしろ 好奇の目で “シャルルボネって誰? 彼にも幻覚が見えたの?” と。さらには “看護師のみんなに 私はシャルルボネ症候群だと言ってちょうだい” (笑) “狂ってもボケてもいない 。シャルルボネ症候群なだけ” 彼女の言うとおりにしました。

(第2部)
7 聴覚障害者の約1割は音楽性幻聴が聴こえ、視覚障害者の約1割は幻視を見る
8 幻覚症状があったのはシャルルボネの祖父

18世紀に話を移しますが この幻覚症状があったのは シャルルボネではなく彼の祖父でした。祖父は高齢の裁判官でした。白内障の手術を受け 視力は相当悪かった。1759年 彼は自分の幻覚症状を 孫に話したのです。

9 幻覚が身の回りのものと調和している
10 幻覚の原因は失明による脳の視覚部分の活動過多
シャルルボネの祖父やロザリーに 起こっている現象を ロザリーに説明しました。視力を失うと 脳の視覚部分に 入る情報が無くなるため そこが活動過多になります。そして自発的に作用してしまい 幻覚を見始めるのです。時に内容も非常に複雑化します
11 弱視の女性に見えるものは厄介だった
12 車に関連した動きのある幻覚も見えた
13 後頭皮質にある小さな腫瘍でアニメ映像が見えた
14 巨大な歯や目をしたデフォルメされた顔が見える
15 症状を訴えるのはそのうちの1%以下
16 精神病性幻覚は巻き込まれてしまう
17 側頭葉てんかんは五感で感じられ、話に筋が通っている
18 シャルルボネ症候群には様々なレベルがある
19 幻覚が現れているときに異なる脳の視覚部分が活発化することが特定された

これは どういうことか 面白いことに過去数年の間に 幻覚症状の最中にfMRIを使用して 脳機能の画像化が可能になりました。実際に幻覚が現れているときに 異なる脳の視覚部分が 活発化することが特定されました。単純な幾何学模様が現れるときは 一次視覚野が活発化します。脳は この領域でへりや模様を知覚します。一次視覚野で画像を作りだすのではありません。

20 画像が作りだされるとき高次の視覚野が側頭葉と作用する
21 脳の別の部分はアニメが見えるときに活発になる
22 1970年頃 特定の細胞があることがわかっ
23 シャルルボネ症候群では高次の領域には達しない

下側頭葉皮質と呼ばれる このレベルでは 視覚画像や断片しか 処理されません。他の感覚が加わってくるのは もっと高次の領域です。そして記憶や感情と関連しています。シャルルボネ症候群では このレベルまでは達しません。下側頭葉皮質において 何千も 何百万もの イメージや断片的な作り事が 決まった細胞や 細胞の小さな固まりに 神経符号化される部分で生じます。

24 下側頭葉皮質の視覚細胞から無秩序で発作的な刺激や放出が行われる
通常 これはどれも知覚や想像の 一体化した流れの一部なのです。人間は意識していません。視覚障害者である場合に限り この過程が中断されます。そして 正常な知覚を得る代わりに 下側頭葉皮質では その視覚細胞から 無秩序で発作的な刺激や 放出が行われているのです。そして突然 顔や車が見えたり 色々なものが見えるのです。頭はまとめようとしたり 一貫性をもたせようと頑張りますが 完璧には働きません。

25 夢のように考えてもダメだった
26 幻覚症状はよくあることで、怖くて言えないだけ

世界の盲人数を考えてください。このような幻覚症状を持つ盲人は 何十万といるに違いない。でも怖くて言えないんです。ですから このような事実は患者 医者 世間のために もっと知られるべきなんです。最後に これは 脳の働きを洞察するには 非常に興味深く 貴重な情報だと思っています。

27 250年経った現在 私たちは真相を究明し始めた
28 私も幾何学模様の幻覚が見えます
29 幻覚は耳鳴りよりはまし
不安にかられませんか? どんなことが起きているのかわかっておられるから。

私が以前に書き、時事通信で配信された記事 https://medical.jiji.com/topics/676

Categorised in: 神経眼科

メルマガ登録
 

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。