眼瞼疾患

[No.1139] 眼部帯状疱疹 (眼の帯状疱疹)とは:

眼部帯状疱疹(眼の帯状疱疹)

日医ニュースで帯状疱疹を説明するポスターが届けられました。コロナ感染が広がっていた当時、この疾患を患う人は多かったようです。私が以前日刊ゲンダイに記載した記事を採録し、Dr. Melvin Roatの記事を参考にやや詳しい記載を併記します。

◎ 一般向けの記載:日刊ゲンダイヘルスケア

みんなの眼科教室 教えて清澤先生

頭痛を伴う眼の周囲の赤い腫れは新型コロナでしょうか?

写真はイメージ

写真はイメージ(C)PIXTA

【Q】三日前から左の目の周りが赤くはれ、微熱もあって頭痛もあります。新型コロナ感染症ではないでしょうか?受診してもよいですか?(83歳女性)
【A】新型コロナウイルス感染症で結膜炎が起きたり眼に痛みを生したりすることがあると聞いて、いきなり眼科を受診してもよいものか、と慎重を期して電話をくださったようです。

 すぐにこの患者さんをお呼びして診察してみると、なんと眼部帯状疱疹。左目の周りに皮疹が出ており、それが額から頭髪の中まで広がっていました。
 帯状疱疹は身体の知覚神経の走行に沿って発疹を生じます。皮疹は1週間くらいで治まるのですが、皮疹が治ってからも嫌な慢性疼痛を残すことがあります。皮疹は体幹にも出ることがありますが、頸部から上ではこの方のように片眼の周囲に出ることが多いのです。
 眼部の帯状疱疹は、三叉神経第一枝(眼神経)の領域におこります。時に第二枝領域にも及ぶことがあります。角膜炎をはじめ、さまざまな眼合併症を生じる場合もあります。この方の皮膚病変ははっきりしたものでしたが、幸いにも角膜、結膜や眼球内には広がってはいませんでした。眼科的治療としては、結膜炎や上皮型の角膜炎などの炎症症状があればアシクロビル軟膏を使い、さらに角膜実質や眼内に炎症を起こしている場合には、局所点眼ステロイド薬等を用いた治療をおこないます。抗ウイルス薬の内服も必要なので、私は最初の眼科的治療の直後に皮膚科医に処方をお願いしています。十分に抗ウイルス作用を発揮させるためには、内服薬の用法・用量を確実に守ることが重要です。(清澤追記:目の周りの皮疹にはゾビラクス軟膏も用います。)

◎ 専門医向けの解説: Melvin I. Roat の記載を参考に加筆(⇔リンク) ,( MD, FACS, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University)改訂年月 2018年 8月

眼部帯状疱疹は,水痘帯状疱疹ウイルス感染症(帯状疱疹)が再活性化して眼部に現れたものである。症状と徴候は重度のことがあり,前頭部皮膚分節の発疹,ならびに前眼部およびまれに後眼部における全組織の有痛性の炎症などがある。診断は前眼部構造の特徴的な外観に加え,三叉神経第1枝(V1)の支配領域における帯状疱疹の皮膚炎に基づく。治療は,抗ウイルス薬の経口投与,散瞳薬,およびコルチコステロイドの局所投与による。前頭部の帯状疱疹は,鼻毛様体神経が侵された場合(鼻の先の病変で示される)は症例の4分の3で,鼻の先に病変がない場合は症例の3分の1で,眼球に病変が及ぶ。全体では,患者の2分の1で眼球に病変が及ぶ。

症状と徴候:前駆症状として前頭部のチクチク感がみられることがある。急性期には,前頭部の有痛性発疹に加えてみられる症状と徴候として,重度の眼痛;著明な眼瞼浮腫;結膜,上強膜,および角膜周囲の結膜充血;角膜浮腫;および羞明などがありうる。

合併症:帯状疱疹(三叉神経第1枝の支配領域)

帯状疱疹(三叉神経第1枝の支配領域)

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診断:〇 前頭部または眼瞼の帯状疱疹の発疹および眼所見

診断は,前頭部,眼瞼,もしくはその両方における典型的な急性の帯状疱疹の発疹,または特徴的な病歴に加え,以前の帯状疱疹の発疹の徴候(例,萎縮して色素減少を起こした瘢痕)に基づく。まだ眼に病変が及んでいなくとも,この領域の小水疱性または水疱性病変は重大リスクを示唆し,眼に病変が及ぶかどうかを判断するため眼科へ相談すべきである。初回評価における皮膚の培養および免疫学的検査もしくはPCR検査,または一連の血清学的検査は,病変が非定型的で診断が確定しない場合にのみ行う。

〇 治療:経口抗ウイルス薬(例,アシクロビル,ファムシクロビル,バラシクロビル)、ときにコルチコステロイドの局所投与。初期治療として,アシクロビル800mgを経口にて1日5回,またはファムシクロビル500mgもしくはバラシクロビル1gを経口にて1日3回を7日間投与することにより,眼合併症が減少する。ぶどう膜炎または角膜炎の患者はコルチコステロイドの局所投与(例,1%酢酸プレドニゾロンを,ぶどう膜炎に対しては1時間毎,角膜炎に対しては最初1日4回点眼し,症状の改善に応じて間隔を延長する)を必要とする。1%アトロピン(または0.25%スコポラミン)1滴を1日3回点眼することにより瞳孔を散大を維持させるべきである。眼圧をモニタリングし,正常値を大きく上回って上昇する場合は治療しなければならない。

全身状態が良好な60歳以上の患者に対し,帯状疱疹後神経痛を予防する目的で,短期間高用量コルチコステロイドを経口投与することには依然議論がある。

〇 予防:組換え 帯状疱疹ワクチンは、帯状疱疹の既往または従来の弱毒生ワクチンの接種歴にかかわらず,50歳以上の免疫能が正常な成人に推奨される。この組換えワクチンで帯状疱疹を発症する可能性は,50~69歳の成人で97%,70歳以上の成人で91%減少する。

〇 要点:

  • V1領域で水痘帯状疱疹ウイルスが再活性化した症例の約半数で眼が侵される。

  • 角膜炎かつ/またはぶどう膜炎は重度で,合併症を生じうる。

  • 典型的な帯状疱疹の発疹の発現は,通常診断に有用である。

  • 治療は,抗ウイルス薬の経口投与,ならびに通常はコルチコステロイドの局所投与および散瞳による。

  • 50歳以上の免疫能が正常な全ての成人に組換え帯状疱疹ワクチンを接種する。

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