欧州で2011年に網膜静脈閉塞症(RVO)に対する抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)抗体硝子体内注射(抗VEGF療法が承認されて以降、RVO患者における心血管疾患(CVD)および全死亡のリスクが上昇していたことが示された。デンマーク・Odense University Hospital/University of Southern DenmarkのKatrine H. Frederiksen氏らは、同国の国民登録データを用いた検討の結果、抗VEGF療法が承認された2011年以降のRVO患者では、非RVO患者と比べてCVDおよび全死亡のリスクが上昇していたとBr J Ophthalmol2022年5月10日オンライン版)に発表した。

デンマーク国民420万人を追跡、RVO患者は1万5,000人

 これまでの研究でもRVO患者におけるCVDリスク上昇は指摘されていたが、抗VEGF療法が承認された2011年以降のデータでの検討は十分でなかった。

 そこでFrederiksen氏らは、デンマークの国民登録データから1998年1月1日~2017年12月31日に同国に在住していた40歳以上の419万4,781例(女性51.0%)を特定し、2018年12月31日まで追跡。RVO患者(1万5,665例、診断時の年齢中央値71.8歳、女性50.7%)と非RVO患者でCVDおよび全死亡のリスクを比較し、抗VEGF療法の導入前後における変化を検討した。

 その結果、非RVO患者に対しRVO患者はCVD新規発症リスクが有意に高く〔調整後ハザード比(aHR)1.13、95%CI 1.09~1.17〕、特に非虚血性CVDで顕著に高かった(同1.23、1.15~1.33)。一方、全死亡リスクの上昇は認められなかった(同1.01、0.98~1.03)。

 サブグループ解析では、CVDリスクは網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)患者(aHR 1.14、95%CI 1.03~1.25)、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)患者(同1.12、1.00~1.25)の両者で上昇していたのに対し、全死亡リスクの上昇はCRVO患者でのみ認められた(同1.18、1.11~1.26)。

2011年以降の診断例で死亡リスク11%上昇

 2011年前後の比較では、2011年以前のRVO診断例では非RVO患者に対するCVDリスクの上昇が認められなかったのに対し(aHR 1.10、95%CI 1.06~1.15)、2011年以降の診断例では上昇していた(同1.19、1.11~1.28)。

 全死亡については、2011年以前のRVO診断例では非RVO患者に対するリスク上昇が認められなかったのに対し(aHR 0.97、95%CI 0.94~1.00)、2011年以降の診断例では11%上昇していた(同1.11、1.06~1.16)。

 以上を踏まえ、Frederiksen氏らは「RVO患者は非RVO患者に比べCVDリスクが一貫して高かった。抗VEGF療法が導入され診療が変化した2011年以降には、それまで見られなかった非RVO患者に対する死亡リスク上昇が見られるようになった」と結論している。

 2011年以降の死亡リスク上昇の要因について、同氏らは「デンマークのRVO患者登録数は2011年以降にほぼ倍増した。すなわち、2011年以前にはRVOに対する治療を受けず、試験にも組み込まれなかったRVO患者集団が存在しており、これらの患者におけるCVDおよび死亡リスクを押し上げた可能性がある」と考察。さらに、「抗VEGF療法の安全性は大規模臨床試験とメタ解析で確立しているが、試験の対象は健康な者である傾向が強く、リアルワールドの長期追跡データが重要」と指摘した上で、抗VEGF療法そのものが原因となった可能性を否定するものではないと付言している。

(太田敦子)(Medical Tribune=時事)