ビジュアルスノウ

[No.3626] 【ビジュアルスノウ症候群とは?】不思議な症状と心の健康との関係

【ビジュアルスノウ症候群とは?】「視界がザラザラ」する不思議な症状と心の健康との関係

2023年、アメリカ・アイダホ州で起きた大学生殺害事件の容疑者ブライアン・コーバーガー氏に関する報道の中で、彼が過去に「ビジュアルスノウ症候群(Visual Snow Syndrome)」を患っていた可能性が指摘されました。このことは、犯罪との直接的な因果関係を示すものではありませんが、あまり知られていないこの症状について広く知ってもらう機会となりました。

◆ビジュアルスノウ症候群とは?

ビジュアルスノウ症候群とは、1995年に初めて医学的に記載された比較的新しい神経学的症候群で、「視界に常に砂嵐のようなザラザラした粒子(視覚ノイズ)が見える」ことを特徴とします。まるで古いテレビにノイズが入ったようなイメージです。この粒子は黒白のことが多いですが、半透明であることもあります。

興味深いのは、このノイズが目を閉じても見え続けるという点です。そのため、日常生活に大きな支障をきたすことがあり、学業や仕事に集中できないという声も聞かれます。

◆関連する症状と診断

この症候群は、視覚ノイズ以外にも次のような症状を伴うことが少なくありません:

  • 光に対する過敏(羞明)

  • 片頭痛

  • 耳鳴り(ブーン、ジーといった音)

米国国立衛生研究所(NIH)などの調査によると、これらに加えて、うつ症状、不安、不眠など精神的な不調を併発する人が多いこともわかっています。発症年齢は平均29歳とされていますが、子どもの頃から自覚していたという人も40%近くにのぼります。

診断には、まず他の病気(眼底異常や脳腫瘍など)を除外したうえで、特徴的な症状をもとに行われます。

◆原因と治療法は?

残念ながら、ビジュアルスノウ症候群の明確な原因はまだ分かっていません。ただし、2022年の総説によれば、脳の「視覚処理中枢」に何らかの異常があるのではないかと考えられています。頭部外傷や脳の慢性的なストレスが関与する可能性も指摘されています。

現在、根治的な治療法はありませんが、抗てんかん薬(ラモトリギンなど)や双極性障害の治療薬が一部の患者に効果があるとする報告があります。また、**オレンジ色の色つきレンズ(遮光眼鏡)**を使用することで、光刺激の緩和が得られることもあります。

◆眼科医としてのコメント

このように、ビジュアルスノウ症候群は決して「目の病気」ではなく、「脳の視覚処理のトラブル」によって引き起こされる症状です。しかし、視覚症状として現れるため、最初に相談されるのは眼科であることが多いのが実際です。

さらに重要なのは、この症状を抱えている方の多くが、「気のせいだ」「精神的なものだ」と軽視されてきた経験を持っていることです。その中には、実際にうつ病や不安障害を併発してしまう人も少なくないため、医療者は視覚だけでなく心のケアにも目を向ける必要があると考えます。

この症候群を持つことが犯罪や異常行動に直結するわけでは決してありませんが、「人知れず困っている視覚の不調」があること、そしてそれが時に心の不調と結びつく可能性があることを、多くの人に知っていただければと思います。


※ビジュアルスノウ症候群に関してお困りの方、もしくは視界の異常で気になる点がある方は、早めに私を含む眼科専門医への相談をおすすめします。症状の背景には別の疾患が隠れている場合もあります。

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