ビジュアルスノウ症候群とは ― 患者の声から学ぶ
「自分だけではない。あなたは一人ではない」――これは、ビジュアルスノウ症候群(Visual Snow Syndrome, VSS)という神経疾患を抱える人の言葉です。VSSは視覚に限らず、聴覚や感覚処理、認知機能、さらには生活全般の質にまで影響を及ぼすことが分かっています。この動画はビジュアルスノウイニシアチブという患者会が作成したものです。
突然現れる症状
ある人は「テレビを見ながらうたた寝をして、目を覚ました瞬間に壁に“雪のようなノイズ”が見えた」と語ります。強い光を見ると太陽を直視しているようにまぶしく、常に砂嵐のような視界が広がるのが特徴です。
多彩な随伴症状
VSSの患者さんはしばしば、閃輝暗点を伴う片頭痛や光過敏、残像、夜間視力の低下、視覚の尾を引く現象などを経験します。また、不眠や耳鳴り、集中困難(ブレインフォグ)、不安や抑うつも見られることがあります。ある人は「目を閉じると紫やオレンジの渦が現れ、そこに吸い込まれそうで怖い」と語りました。こうした体験は他人に理解されにくく、孤独感を強めます。
誤解と診断の難しさ
世界人口の2〜3%がVSSを経験していると推定されていますが、まだ医師の間でも十分に知られていません。受診しても「検査は正常」「健康だから心配ない」と言われ、精神疾患や薬物使用と誤解されることさえあります。そのため、診断がつくまでに何年もかかるケースが珍しくありません。
日常生活への影響
VSSは外からは分からない「見えない障害」です。ある患者さんは「一日中、視覚刺激を処理しているため、夕方にはスマートフォンの電池が切れるように体力が急激に落ちる」と表現しています。症状のために勉強や仕事、社会生活に困難を感じる方も多くいます。
対処法と支援
残念ながら、現時点で完治に至る治療法は確立されていません。しかし、色付きレンズを用いた眼鏡で症状が和らぐ場合があります。また、瞑想や認知行動療法によって、不安や過敏な反応を和らげる工夫も有効です。私のクリニックでは臨床心理士と連携し、認知行動療法を実際に取り入れて診療に活かしています。これは、症状そのものを消すことは難しくても、患者さんが「症状との付き合い方」を身につけ、日常生活の負担を軽減するために役立っています。
患者団体である Visual Snow Initiative の活動を通じて情報が共有され、「この症状には病名がある」と知ることが大きな安心につながっています。診断が確定すれば、学校や職場にも正式に伝えることができ、周囲の理解を得やすくなります。
まとめと受診のすすめ
ビジュアルスノウ症候群は、まだ一般には知られていない神経疾患であり、多くの患者さんが長年にわたり説明のつかない不調に悩んできました。しかし研究や患者会の活動により、ようやく医療者の理解が進みつつあります。
眼科医として強調したいのは、こうした症状を一人で抱え込まず、まずは専門医を受診していただきたいということです。VSS自体に対する決定的な治療はなくとも、併存する片頭痛や不安、不眠などへの対応は可能です。また、見知った眼科医が症状を理解し、話を聞いてくれるだけでも大きな安心につながります。さらに、当院では臨床心理士による認知行動療法を導入し、症状に対する心理的な負担を和らげるサポートを行っています。
「見えない障害」に光を当て、患者さんと共に歩むことが、より良い未来につながるのです。
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