ビジュアルスノウ

[No.4131] 「ビジュアルスノウ症候群(Visual Snow Syndrome:VSS)および前兆を伴う片頭痛における異常なグルタミン酸作動性およびセロトニン作動性接続性」

「ビジュアルスノウ症候群(Visual Snow Syndrome:VSS)および前兆を伴う片頭痛における異常なグルタミン酸作動性およびセロトニン作動性接続性」


背景

ビジュアルスノウ症候群VSSは、視界に常に小さな“雪”のような点が動いて見える感覚現象で、時に羞明(まぶしさ)、パリノプシア(残像)や夜間視の低下などを伴い、生活の質を大きく下げることがあります。Wiley Online Library+2キングス・カレッジ・ロンドン+2 さらに、片頭痛、特に前兆(光や視界異常を伴うタイプ)を持つ片頭痛とも関連が指摘されてきました。PMC+1 しかしながら、「なぜこのような感覚が起きるのか」、つまり神経伝達物質や脳回路レベルのメカニズムは十分には解明されていませんでした。

目的

そこで本研究では、VSS患者において、どの神経伝達物質(グルタミン酸、セロトニンなど)が脳内の回路接続性(機能的連結性)に関わっているかを、健常者および片頭痛患者と比較して明らかにすることを目的としました。PubMed+1 特に「受容体マップ+安静時fMRI(機能的磁気共鳴画像法)」を組み合わせた新しい解析手法を用いて、グルタミン酸作動性・セロトニン作動性のネットワークに焦点を当てています。

方法

研究にはVSS患者24名、健常対照24名、片頭痛患者25名(うち前兆付きが15名)が参加しました。PubMed 解析方法として「Receptor-Enriched Analysis of Functional Connectivity by Targets(REACT)」という手法を用い、各種神経伝達物質に関わる受容体・トランスポーター分布をテンプレートとして設定し、その上で被験者ごとのfMRIデータから機能的接続性マップを作成しました。Wiley Online Library+1 その後、グループ毎にボクセル単位(脳の細かい領域ごと)で比較を行いました。

結果

主な結果は以下の通りです。

  • VSS患者では、健常者および片頭痛患者と比べて、前帯状皮質(ACC:anterior cingulate cortex)に位置するグルタミン酸作動性ネットワークの機能的接続性が低下していました。PubMed+1

  • また、島皮質(insula)、側頭極(temporal pole)、眼窩前頭皮質(orbitofrontal cortex)などにおいて、セロトニン作動性ネットワークの接続性が健常者に比べ低下しており、この傾向は前兆付き片頭痛患者にも近しいものでした。PubMed+1

  • さらに、5-HT₂A受容体(セロトニン系の一種)を豊富に含むネットワークでも、後頭部〜頭頂部連合野(occipito-temporo-parietal association cortex)で接続性の低下が確認されました。Wiley Online Library+1

  • これらの変化は、片頭痛を併発していない「純粋なVSS」群でも確認され、片頭痛の有無に依らず認められたため、VSS特有の生物学的変化と考えられます。PubMed

結論

この研究から、VSSの背景には「グルタミン酸作動性」および「セロトニン作動性」ネットワークの機能的接続性低下という神経化学的な異常が存在する可能性が示されました。特に、視覚系・注意・顕著性(salience)ネットワーク・大脳辺縁系を含む広い脳回路にこれらの変化が関与していることが示唆されますPubMed また、セロトニン系の変化が「片頭痛を併発していないVSS」でも認められたことから、VSSと片頭痛(特に前兆付き)には共通の神経生物学的土台がある可能性も浮かび上がりました。キングス・カレッジ・ロンドン+1 今後、これらの知見はVSSに対する治療標的の発見につながる可能性があります。残念ながら現時点でVSSに有効な薬物療法は確立されておらず、こうした基盤研究が鍵となります。Visual Snow Initiative


眼科の立場から言えば、VSSは一見“眼”というより“脳の情報処理”の問題ですが、視覚異常が主症状ですので、眼科医もその存在を知っておきたい疾患です。今回の論文は、患者さんに「目には異常がないが、脳の回路の中で情報の“フィルタ”や“つながり”がうまくいっていない可能性がある」という説明をする際の裏付けになります。今後、目の検査では見つからないこうした症候にも配慮して、視覚症状を訴える患者さんへの問診・説明材料として活用できるでしょう。

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