ビジュアルスノー症候群の人は画像の中に「顔が見えやすい」のか
― 顔のパレイドリア錯覚から分かる脳の過敏さ ―
ビジュアルスノー症候群(Visual Snow Syndrome:VS)は、視野全体に細かな点や砂嵐のようなちらつきが常に見える状態が続く神経学的な症候群です。目の検査では異常が見つからないことも多く、患者さん自身も「説明しづらい見え方」に悩まされることがあります。近年では、この症候群の背景に、脳の視覚を担う領域の「過敏さ」が関与している可能性が注目されています。
今回紹介するのは、2025年に発表された原著論文で、ビジュアルスノー症候群の人が「顔のパレイドリア錯覚」にどれほど敏感かを検討した原著研究です。顔のパレイドリア錯覚とは、雲、建物、壁の模様など、本来は顔ではないものに顔のような形を見出してしまう現象です。多くの人が一度は経験しますが、その起こりやすさには個人差があります。
この研究の目的は、ビジュアルスノー症候群の人では、この錯覚がより起こりやすいのか、つまり「顔らしさ」を過剰に感じ取ってしまう傾向があるのかを明らかにすることでした。研究者たちは、視覚情報を処理する脳の働きが過敏になると、初期段階で生じる見間違いが十分に修正されず、錯覚として残りやすくなるのではないかと考えました。
方法として、ビジュアルスノー症候群を自己申告した132人と、年齢を一致させた健常対照者104人を対象に、オンラインで調査が行われました。参加者は、ビジュアルスノー症状に関する質問票に回答した後、日常風景の画像を見て「どれくらい顔に見えるか」を評価する課題に取り組みました。
結果は明確でした。ビジュアルスノー症候群の人は、対照群と比べて、顔のパレイドリア錯覚に対する感受性が有意に高いことが示されました。さらに、片頭痛を併存している場合には、その傾向がより強くなることも分かりました。ただし、片頭痛の影響を統計的に除外しても、ビジュアルスノー症候群の人では「顔に見えやすい」傾向が残っており、この症候群そのものと関連している可能性が高いと考えられました。
また重要な点として、特定の画像だけに異常反応を示したわけではありません。どの画像が「顔に見えやすいか」という順序は、健常者とほぼ共通しており、反応の仕方の“質”が違うのではなく、全体として感度が高くなっている状態であることが示されました。
著者らはこれらの結果から、ビジュアルスノー症候群では視覚野の過興奮性により、初期の視覚処理段階で生じる誤認が十分に抑制されず、その結果として錯覚が増強される可能性を指摘しています。この研究は、ビジュアルスノー症候群が「見え方の不調」という主観的な訴えにとどまらず、脳の情報処理特性として客観的に捉えられることを示した点で意義深いものです。
出典(原著論文)
Saurels BW, Robinson AK, Taubert J.
Increased susceptibility to face pareidolia illusions in visual snow syndrome.
Cortex. 2025;55(2).
DOI: 10.1177/03010066251387849
(本論文はオープンアクセスで閲覧可能)
清澤のコメント
ビジュアルスノー症候群は「説明しにくい症状」の代表例ですが、本研究はその背景にある脳の過敏さを、錯覚という身近な現象から示しています。患者さんの訴えを主観的なものとして片づけず、脳の特性として理解する視点が、今後ますます重要になると感じます。



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