この研究は、米国マサチューセッツ州の10の病院において、入院時の普遍的なSARS-CoV-2検査とマスク着用義務を中止した後、院内での呼吸器ウイルス感染症の発生率にどのような影響があったかを調査したものです。研究は2020年11月から2024年3月までの期間にわたり、641,483人の入院患者を対象に行われました。この期間中、SARS-CoV-2、インフルエンザ、RSウイルス感染症の発生が調査されました。
研究背景
2023年5月、病院では患者全員へのSARS-CoV-2検査とマスク着用義務を中止しましたが、2024年1月に冬季の呼吸器ウイルス感染の増加を受け、医療従事者のみマスク着用を再開しました。この研究は、これらの方針変更が院内発症の呼吸器感染症に与える影響を評価することを目的としています。
研究方法
研究ではポアソン回帰モデルを用い、以下の4つの期間での院内発症感染率の変化を分析しました:
- オミクロン以前:全員検査とマスク着用が実施された期間。
- オミクロン流行期:全員検査とマスク着用が継続された期間。
- 検査・マスク義務中止後:これらの措置が終了した期間。
- 医療従事者のみマスク再開後:医療従事者が再びマスクを着用した期間。
患者は入院後4日以上経過してから初めて陽性となった場合に院内発症とされ、4日以内の陽性は市中発症と分類されました。
結果
調査期間中、30,071件の市中発症と2,075件の院内発症が確認されました。特に、普遍的検査とマスク着用を終了した後、院内発症感染率が顕著に増加し、その後医療従事者のマスク着用再開により減少しました。
- マスク着用と検査の終了後、院内発症感染率は25%増加(率比1.25)。
- 医療従事者のマスク再開後、院内発症感染率は33%減少(率比0.67)。
また、院内発症とされた症例のうち89%は新たな症状を示し、8%が死亡していました。
議論
この研究では、普遍的な検査とマスク着用の中止が院内での呼吸器ウイルス感染症の増加と関連していることが示されました。一方で、医療従事者のみのマスク着用再開が感染率の減少に寄与しました。
結論
研究は、特に市中感染が増加する冬季において、マスク着用や検査が院内感染を防ぐ効果的な手段であることを示唆しています。ただし、コンプライアンスのばらつきや検査効果とマスク効果の分離の難しさなどの限界もあります。この結果は、病院が感染対策を再検討する際の参考となる重要なデータです。
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