眼科医療経済等

[No.3182] 「米国の農村部における眼科専門医の不足」、日本の制度は?

清澤のコメント:「米国の農村部における眼科専門医の不足」が今月の米国医学会雑誌眼科編の招待コメントで論じられています。日本でも眼科医の都市偏在は同様に問題視されますが、米国は国土も広く、眼科のサブスペシャリティー医療の受診困難な地域は多いようです。61%の郡(カウンティー)には眼科医が存在せず、24%の郡では眼科医も検眼医(オプトメトリスト)もいないとしています。末尾に日本のシーリング制度を追記し説明します。

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米国の地方における眼科専門医の不足

ソフィア・Y・ワン医学博士、理学修士

JAMA Ophthalmol. 202512日オンライン公開。doi:10.1001/jamaophthalmol.2024.5704

 

地方における眼科専門医の不足:米国では農村部人口が全体の20%を占める一方、医師の10%未満が農村部で診療を行っています。この格差は眼科でも顕著で、61%の郡に眼科医が存在せず、24%の郡では眼科医も検眼医もいません。そのため、11.7%のアメリカ人が眼科医のいない地域に住んでいます。特に農村部では高齢者や低所得者の割合が高く、加齢性疾患(緑内障や黄斑変性症)や糖尿病性網膜症などの慢性疾患への対応が困難となり、健康格差が拡大する懸念があります。

 

Ahmedらの研究:本号では、Ahmedらがメディケア請求データを用いて眼科外科専門医の地理的分布を調査しました。眼科専門外科(角膜、緑内障、網膜など)の患者の1318%が農村部に居住している一方、農村部で診療する眼科専門医はわずか48%でした。また、新卒医師ほど地方勤務の割合が低い傾向が明らかになり、地方の眼科医療需要と供給のギャップが指摘されています。

 

解決策の模索:地方の医師不足解消には多方面からのアプローチが必要です。医師の地方開業を促す政策として、ローン返済や奨学金を提供するプログラムがありますが、眼科は対象外となることが多いのが現状です。一方、地方出身の医師や地方医療プログラム卒業生が地方で診療を継続する可能性が高いことが示されており、地方出身の眼科専門医の育成が期待されています。さらに、遠隔医療や移動診療所の活用も検討されています。遠隔医療は慢性疾患の一部を支援できますが、眼科検査や処置には限界があり、すべての需要を満たすことは困難です。特に硝子体内注射などの定期的な治療を必要とする患者に対しては、現地での対応が不可欠です。

結論:農村部の眼科専門医不足への対応は、医療アクセスと公平性の改善に不可欠です。医療政策、医学教育、コミュニティの取り組みを組み合わせた戦略が求められます。今後、持続可能で革新的な解決策の追求が必要です。

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日本の現在行われている眼科研修医のシーリングという採用制限を説明します。
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1. 背景

  • 診療科の偏在
    日本では、人気診療科に医師が集中し、他の診療科、特に産科・小児科・外科などで医師不足が深刻化している状況があります。眼科は比較的医師の働きやすい環境が整っており、女性医師にも人気が高いため、医師希望者が集中しやすい診療科の一つです。

  • 地域の偏在
    都市部に医師が集中する一方で、地方では医師不足が深刻です。このため、都市部の人気診療科である眼科の採用制限が行われることがあります。

  • 医療提供体制の最適化
    医師数の総量を管理し、医療資源を効率的に活用するため、国が医療計画に基づいて研修医の定員を調整しています。


2. シーリングの仕組み

  • 定員の設定
    各都道府県や病院ごとに、厚生労働省が研修医の定員を設定します。特に人気診療科である眼科や皮膚科は定員が他の診療科に比べて低く抑えられる傾向があります。

  • 研修医の採用制限
    各病院が希望する人数を採用するのではなく、事前に定められた枠内でしか研修医を採用できません。

  • 病院間の競争
    研修医が定員に達した場合、希望者がいてもそれ以上の採用はできないため、病院間で優秀な研修医を確保する競争が生じています。


3. 眼科シーリングの影響

  • 都市部の研修機会の減少
    都市部の人気の高い眼科研修プログラムに希望者が集中しやすい一方で、シーリングによって採用人数が制限されるため、一部の研修医は他の診療科や地方の病院への研修を余儀なくされる場合があります。

  • 地方の研修充実化
    地方の病院や大学病院での研修が推奨され、地域医療の人材確保に寄与します。

  • 眼科専門医の増加抑制
    全国的な眼科医の数が抑えられ、専門医の増加ペースが緩やかになる可能性があります。


4. 賛否両論

  • 賛成意見

    • 医師の地域・診療科偏在を是正する必要性がある。
    • 医療資源の効率的な利用が促進される。
    • 医療の質を全国的に均一化する助けになる。
  • 反対意見

    • 人気診療科への進路を制限するのは、医師の自由なキャリア選択を阻害する。
    • 必要以上に採用を絞ることで、将来的に眼科医不足が生じる懸念がある。
    • 都市部での眼科医療の質や研究環境が低下する可能性がある。

5. 将来的な課題

  • 医師の偏在是正と、診療科ごとの適切な医師数のバランスをどう取るか。
  • 若手医師が自由にキャリアを選べる環境を維持しながら、医療全体の効率を確保する方法を模索する必要があります。
  • 地方病院の魅力を高め、シーリング政策に頼らずに医師が地方や不足診療科に進むような仕組み作り。

このように眼科の研修医シーリングは、医療政策全体の一環として行われているものであり、医療提供体制の最適化と個々の医師のキャリア選択の自由のバランスを取ることが求められています。

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