眼科医療経済等

[No.3437] 移民排斥政策が米国医療に与える深刻な影響 ― JAMA掲載レポートより

移民排斥政策が米国医療に与える深刻な影響 ― JAMA掲載レポートより

私が米国に留学した1987年当時、日本の医師免許を持って渡米し、現地の試験(当時はECFMG)を突破して臨床医として働くことは、多くの若手医師にとっての夢でした。米国は優秀な人材に門戸を開き、多様性を力に変えて発展してきた国です。

しかし、最近のトランプ前大統領の移民政策は、その流れに逆行するものとなっており、米国医療に深刻な影響を与える可能性があるという研究が、2025年4月3日付のJAMA(米国医学会雑誌)に掲載されました。

このリサーチレターでは、非市民の移民による医療労働力の実態が詳細に分析されています。2024年の人口調査データを用いた分析によれば、米国内で働く医療従事者のうち100万人以上が非市民移民であり、その約3分の1は文書化されていない、いわゆる「不法移民」です。

具体的には、病院や外来部門で働く人員の約4%、老人ホームの労働者の7%、在宅や非公式介護施設では少なくとも10%を非市民が占めており、特に長期介護分野では移民が欠かせない存在となっています。例えば、非市民の医師は全体の8.8%、看護助手なども数十万人規模に達します。

ところが、トランプ政権が掲げた移民排除方針、特にTPS(一時保護資格)保有者やDACA(若年移民救済措置)の打ち切りは、これらの人々の労働継続を脅かしています。結果として、看護師や介護士などの人材不足が一層深刻になれば、病院の稼働率低下、救急外来での対応遅延、さらには患者の退院遅れにもつながりかねません。

今回の研究は、従来の分析よりも広く医療従事者全体を対象とし、特に強制送還のリスクが高い層の実態に焦点を当てている点で意義深いものです。

もちろん、この調査にも限界はあります。たとえば、人口調査は不法滞在者や非公式労働者を過少に評価している可能性がある点などです。

それでも、この研究が明らかにするのは、「医療の担い手」としての移民の存在感と、その排除が国民全体の健康に影響を与えうるという事実です。米国の医療体制は、今や国籍や出自を超えた人材によって支えられていることを、私たちは改めて認識する必要があるのではないでしょうか。

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