医療の「突然死」が現実に——私たちは今、何を問うべきか?
わたくしはこのブログで、まず眼科の私的な診療所の経営が、どれほど誠実に日々の診療を続けていても、決して簡単に黒字にはならないという現実を、繰り返し訴えてきました。また、国民医療費や介護保険制度の財源不足が続く中で、一般国民もまた、医療・介護にかかる税負担や保険料の増大にすでに疲弊しきっているという実情についても、何度か紹介してきました。
そんな中、本日目にした『週刊現代』(2025年7月21日号)のネット記事には、非常に大きな衝撃を受けました。記事のタイトルは「全国赤字ワースト病院ランキング100」。内容は、公的な医療機関、とくに公立病院や半官半民の病院が、今や「突然死」寸前の経営状態にあるという、信じがたい実態を明らかにしています。
なかでも私にとって切実だったのは、かつて私が奉職していた東京医科歯科大学(現・東京科学大学)が、数多くの医師を派遣している都内の名門都立病院が、赤字の上位を占めていたことです。これらは長年にわたり地域医療を支えてきた病院であり、また高度医療や救急医療の要でもありました。それらが今、崩れつつあるのです。
たとえば、記事によれば東京都の「多摩総合医療センター」が約90億円という赤字を抱え、全国ワースト1位に位置しています。他にも、急患の受け入れや夜間診療を担っていた中核病院が続々とランクイン。都立病院や地方の県立病院までもが、赤字経営の末に医師の確保ができず、一部診療科の閉鎖や、診療停止を余儀なくされています。
このような事態は、もはや一部の病院の経営問題ではなく、「医療制度全体の危機」です。
これまで医師会などを通じて診療報酬の見直しを求める動きは何度もなされてきました。しかし、現場の実感としては、それだけでは到底追いつかないほど、医療の現場を取り巻く環境は変化しています。物価の上昇、人件費の高騰、エネルギーコストや医療機器価格の増加……それらが一体となって、病院の経営を圧迫しています。
また、新型コロナウイルス感染症の流行期に一時的に注入された補助金が、2023年以降に大きく削減されたことも、病院経営を一気に悪化させました。補助金がなくなれば、元々赤字体質だった公的医療機関は一気に崩れてしまう。その構造的な弱さが、いま露わになっています。
では、解決の道はどこにあるのでしょうか?
一つには、国民全体が「医療を社会で支える」という意識を持つことが必要です。「無料で受けられるもの」としての医療ではなく、「社会インフラとして維持すべきサービス」としての医療へと、国民の理解を深める努力が必要です。
また、政治的にも、医療費の効率的な再配分とともに、地域医療構想の見直しが不可欠です。不要な病床を減らす一方で、本当に必要な救急・小児・高齢者医療を支える病院には重点的な支援がなされるべきです。
そして、民間と公立病院、診療所と中核病院、訪問医療と高度医療、それぞれが連携し、地域に合った「持続可能な医療モデル」を築く努力が求められます。
眼科医として、私は専門分野に集中しつつも、このような医療全体の流れから目を逸らしてはいけないと痛感しています。
私たちは今、医療の「突然死」が現実のものになろうとしている時代に生きています。だからこそ、声を上げ、現場の声を届け、そして地域社会とともに「守るべき医療」の形を考えていく責任があるのではないでしょうか。
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