【退役軍人の心のケアを支える研究:JAMA Psychiatry米国医師会精神科編より】
本日は、私が関わるもうひとつの仕事――退役する米軍人の眼科健康診査――と深く関係のあるテーマをご紹介します。
それは、「退役軍人のメンタルヘルス(心の健康)」について。
2025年7月にJAMA Psychiatry誌に掲載された記事「Mental Health Research in the Department of Veterans Affairs(退役軍人省のメンタルヘルス研究)」をもとに、専門的すぎないよう、分かりやすくまとめてみました。
- なぜメンタルヘルス研究がVAで重視されているのか?
退役軍人省(VA)は、退役した米軍人とその家族に対して医療を提供しています。その中でも心の病(PTSD、うつ病、自殺リスクなど)は、ここ20年間で特に注目されてきた分野です。
兵役を経た退役軍人は、戦闘体験、軍事トラウマ、民間社会への再適応困難といった特有のストレス要因を持ち、それが精神的な不調を引き起こすことが多いのです。
- 民間人との違い:深刻なリスクの高さ
- PTSD(心的外傷後ストレス障害)の発症率は、退役軍人が民間人の約2倍。
- 自殺率も高く、女性退役軍人は非退役女性の92%増し、男性は44%増しという衝撃的な統計があります。
- また、うつ病、不安障害、薬物依存といった問題も深刻です。
私の検診でも、眼科的な異常が“心の病”のサインとして出ることがあり、メンタルヘルスの理解が不可欠です。
- 効果が乏しい既存の治療法:VAの挑戦
PTSDに対する治療法は複数ありますが、退役軍人では期待ほどの効果が出ない例が多いといいます。たとえば:
- 民間では有効な心理療法(長期曝露療法など)が、退役軍人では奏功しにくい。
- 薬物療法もFDA承認薬はわずか2種(セルトラリン、パロキセチン)で、2001年以降は新薬が登場していません。
これらに対し、VAは独自に臨床試験(14件)を進め、2年以内に新薬開発の成果が出る可能性があるとされています。
- サイケデリック治療など新たな領域にも挑戦
最近注目されるMDMAなどのサイケデリック薬物を用いた治療についても、VAは研究を始めています。自殺予測モデルや、早期介入の仕組みづくりなどにも積極的です。
特に注目すべきは、VAが「環境曝露」(たとえば戦地の焼却ピットなど)と精神障害との関連まで踏み込んで研究している点です。
- ブログ著者の私も、このVAの眼科健診に関与しています
私自身、米国の退役軍人省の依頼により、退役する米軍人の眼科健康診査に現在も従事しています。
兵役後の健康リスク――それは心だけでなく「眼」も含まれます。例えば:
- 緑内障、黄斑変性など通常の眼科で扱われる眼疾患
- PTSDが眼球運動異常や羞明、視覚過敏などとして現れること
- 薬物療法による眼の副作用
- 自殺念慮をもつ患者の視覚訴え(例:見え方の異常)など
こうした全身と眼とのつながりを理解し、支援することが、私たち下記VES(退役軍人評価サービス)に指定された医師にも求められています。このため、私も定期的に診療に当たっての米国ヒューストンからの教育をオンラインで受講し、聴講成果の試験も受けさせられています。
- 結論:退役軍人のための研究は、社会全体に還元される
退役軍人のためのメンタルヘルス研究は、そのまま民間人への応用にもつながる知見を提供します。
心の病は、誰にでも起こり得る問題。
そして、目の異常が“心のサイン”であることも、もっと知られてよいのではないでしょうか。
📖 参考文献
◎ Mark A. Reger, PhD; Miriam J. Smyth, PhD. Mental Health Research in the Department of Veterans Affairs. JAMA Psychiatry. Online published July 23, 2025. DOI: 10.1001/jamapsychiatry.2025.1808
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