岐路に立つ国立病院機構の経営と東京医療センターの特例的黒字
全国の公的・私的病院は、物価や人件費の高騰に直面し、経営危機が深刻化しています。国立病院機構(NHO)も例外ではなく、2024年度の経常収支は375億円の赤字に転落しました。前年は47億円の黒字であったことを考えると、その悪化ぶりは際立っています(出典:橋本佳子「岐路に立つ病院経営」m3.com、2025年9月30日)。
NHOは全国140病院を運営し、そのうち実に84%(118病院)が赤字です。赤字の背景には、①コロナ補助金の終了、②光熱費や人件費の上昇、③システム改修など追加費用の発生があります。とくにコロナ禍では補助金に支えられ2021年度に908億円の黒字を出したものの、患者数が元の水準に戻らず、補助金がなくなった途端に収支は悪化しました。
地域を支える役割と経営の板挟み
NHO病院の多くは急性期医療を担いながら、結核、重症心身障害、筋ジストロフィーなど政策的医療をも担当しています。高度急性期病院は特に人件費高騰の打撃を受けやすく、経常収支が厳しい状況です。精神科や障害者病床を中心とした病院ではさらに深刻で、規模や地域を問わず赤字が広がっています。
地域差はなく、都市部でも地方でも同様の苦境です。NHOは全国一律の給与体系を持ち、外的コスト要因の影響を強く受けるからです。そのため経営状況は「地域の競合状況」と「患者の信頼度」に大きく左右されるとされています。
例外的に黒字を維持する東京医療センター
こうした中で、例外的に黒字を計上している病院の一つが**東京医療センター(東京都目黒区、640床)**です。2024年度の医業収支は約5億円、経常収支は約10億円の黒字でした。
この地域(世田谷・渋谷・目黒の2次医療圏)は人口約150万人を抱えながら大学病院本院が存在せず、大規模病院の競合が少ないという特殊事情があります。その結果、患者が集中しやすく、また地域住民からの信頼が厚いため、安定した入院・外来数を確保できています。これが「黒字化の鍵」となっているのです。
しかし、同規模・同機能の都市部NHO病院でも赤字に陥っている例があるため、東京医療センターの成功は地域事情と病院の信頼形成が重なった「特殊な環境」によるものと考えられます。
今後の課題:病床削減と病院再編
2024年度には、病床稼働率が低い病院で計831床の減床が実施されました。さらに4病院で「地域包括医療病棟」が導入されるなど、機能転換が進められています。舞鶴市ではNHO病院と市立・赤十字・共済病院が再編統合に向けた協議に入っており、今後こうした動きは全国に広がる可能性があります。
院長コメント
私の医院から患者さんを紹介することも多い東京医療センターは、幸いにも黒字を維持しています。しかし、これは競合が少ない地域事情という「特例」に支えられている面が強いようです。多くの公的病院は赤字に苦しみ、機材更新や人員確保が制限されると、治療水準の低下につながりかねません。さらに、仮に地域の公的病院が閉鎖に追い込まれれば、国民医療に大きな損害を与えることは明らかです。
病院経営の改善には効率化や再編だけではなく、「公的病院をどう支えるか」という社会全体での議論が欠かせません。国民の医療を守るためには、財政基盤の補強と地域医療構想に沿った柔軟な制度設計が求められると感じます。
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