Apple Watchが高血圧を知らせる時代に ―「血圧の手がかり」が手首にやってくる
高血圧は、世界で13億人以上が影響を受ける「沈黙の病」と呼ばれています。自覚症状が乏しく、年に一度の健康診断でも見逃されることが珍しくありません。そんな中、Apple Watchに「高血圧の可能性」を知らせる新機能が登場し、話題を呼んでいます。これは、医療機関に行かなくても日常生活の中で血圧の変化に気づける可能性を開く画期的な一歩です。
■ 背景:クリニックから手首へ
Apple Watchの新機能「Hypertension Notification(高血圧通知)」は、米国FDA(食品医薬品局)によって正式に承認された初の高血圧検知支援機能です。Apple Watch Series 9以降およびUltra 2で使用でき、妊娠しておらず、これまで高血圧と診断されたことのない22歳以上の成人を対象としています。
ブラウン大学のシャー医師は「オフィスでの一時的な測定よりも、自宅での日常的なデータのほうが真実を語る」と述べ、診療所の外でのモニタリングに大きな期待を寄せています。
■ 方法:光で血流を読み取る
この機能は、フォトプレチスモグラフィー(PPG)という光センサーで皮膚下の血流変化を検出し、30日間にわたり約2時間おきに自動でデータを収集します。
ただし、血圧そのものの数値を表示するわけではなく、30日後に「高血圧の兆候」があると判定された場合にユーザーへ通知する仕組みです。通知を受け取った人は、医療機関で正式な血圧測定を受けることが推奨されます。
■ 結果:特異度は高く、誤検知を防ぐ設計
Apple社は、2,000人以上の成人を対象に検証研究を実施しました。参加者は1日12時間以上Apple Watchを装着し、家庭用血圧計(Omron Evolv)で1日2回測定。
結果として、この機能の感度は41.2%(実際の高血圧を検出できた割合)、特異度は92.3%(誤って高血圧と判定しなかった割合)でした。
高血圧の程度が強いほど検出率が高く、特にステージ2高血圧では感度が約54%に上がりました。ナタラジャン医師(ハーバード大学)は「誤警報を減らすために特異度を優先した設計」と評価し、一般消費者向けデバイスとしては妥当だと述べています。
■ 意味:アラートがなくても安心できない
一方で、特異度を優先した分、感度が低くなっているため、「警報がない=高血圧ではない」とは言えません。
医師らは「警告が出た場合には真剣に受け止めて精査すべきだが、警告がなくても油断せず、定期的な血圧測定を続けることが大切」と強調します。Appleも、アラートを受けたユーザーに「7日間の家庭血圧測定ログ」を取るよう促しています。
■ 今後の展望:他社の動きも活発
Samsungはすでに血圧測定機能を持つGalaxy Watchを韓国などで提供中ですが、米国ではFDA未承認。OMRON社の「HeartGuide」は2019年にFDA承認を受けた腕時計型血圧計として販売されています。GoogleもPixel WatchやFitbit向けに類似機能を開発中です。
ウェアラブル機器が「自分の健康を見守る医療の前哨基地」となる日は、そう遠くないかもしれません。
■ 清澤のコメント
このニュースは、血圧という“見えない危険”を身近なデバイスで可視化しようとする試みとして非常に興味深いものです。眼科領域でも、緑内障や網膜血管障害など高血圧が関係する疾患は多く、患者が早期に異常に気づくことで、眼疾患の予防にもつながる可能性があります。然し私自身は高血糖ですが、毎月の血圧測定で異常高値が出たことは全くなく、この装置の必要性は全く感じてはいません。今後、Apple Watchや他社製品が医療データの信頼性を高めていけば、家庭での健康モニタリングと医療現場の連携がより密接になることは否定しません。
Source:
Brooks, M. “Apple Watch Hypertension Alerts Bring Blood Pressure Clues From Clinic to Wrist.” Medscape Medical News, October 9, 2025.
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