眼科医療経済等

[No.4402] アメリカのWHO脱退が意味するもの —世界の公衆衛生と日本の医療現場への影響を考える—

アメリカのWHO脱退が意味するもの

—世界の公衆衛生と日本の医療現場への影響を考える—

2026年1月22日、アメリカ合衆国が国際的な公衆衛生の中心的機関である世界保健機関(WHO)からの正式な脱退を完了したと発表されました。これは1948年の加盟以来、初めての脱退であり、世界の保健医療体制に重大な転換点をもたらす可能性があります。

今回の脱退は、前大統領ドナルド・トランプ氏が2025年1月20日に大統領令を発し、脱退プロセスを開始したことに始まります。この決定は「新型コロナウイルス感染症へのWHOの対応が不適切であった」という強い批判を根拠としています。アメリカ政府はこれを機に、WHOとの協調をやめ、二国間協力や他の機関を通じた健康戦略に重心を移す意向を示しています。

しかし重要な点として、脱退が公式に完了したにも関わらず、アメリカ側は未支出の拠出金(分担金)約2億6000万ドル(約340億円〜)の支払いを拒否していると報じられています。WHO側は国際協定に基づき、脱退には未払い分担金の全額支払いが前提であると主張していますが、米国政府は支払い義務を否定しています。


WHO脱退の制度的背景

WHOは国連の専門機関として、感染症対応、ワクチン政策、疾患監視、健康基準の策定など、公衆衛生の国際協調を支える役割を担っています。アメリカは長年にわたり最大級の資金拠出国であり、その財政的・人的貢献はWHOの活動基盤を支えてきました。

一方で、WHO憲章には明確な「脱退条項(退出手続き)」が含まれておらず、米国内法では「1年前の通告と未払い分担金の支払い」が脱退条件とされていました。しかし、今回の米国側の「支払い拒否」という行動は、国際法と国内法の解釈の食い違いを生み、今後の法的・政治的な議論を誘発しています。


世界への影響

アメリカのWHO脱退は単なる政治的ニュースにとどまらず、世界の感染症対策や健康指標づくりに深刻な影響を及ぼす可能性があります。

WHOは季節性インフルエンザのワクチン株選定、ポリオ根絶、結核対策、エボラ出血熱や新興感染症の監視ネットワークといった国際的な取り組みを主導しています。これらのプロジェクトは、加盟国間の情報共有や資金協力によって初めて成立するものであり、主要な資金提供国の離脱は財政の不安定化につながります。 WHO自体が人員削減や予算見直しの必要性を迫られる可能性も指摘されています。

さらに、WHOのガイドラインや技術支援は、日本を含む多くの国で医療政策の根幹として活用されています(例:ワクチン戦略、抗生物質使用基準、感染症緊急対応プロトコルなど)。アメリカがこうした国際標準策定の場から離れることは、米国の科学者や医療機関が持つ影響力低下も意味します。


日本と眼科医療への視点

日本の臨床現場や眼科診療にも、WHOが策定する健康基準や疫学データは重要です。例えば、国際的に共有される感染症関連データは、新興ウイルス感染と眼合併症リスク評価ワクチン接種後の副反応モニタリングにも影響します。WHO脱退によるデータ共有体制の変化は、結果として日本の医療機関が臨床判断を行う際の情報アクセスに影響を及ぼす可能性があります。

また、眼科領域でも糖尿病網膜症やトラコーマ、未熟児網膜症といった疾患対策は、国際的なガイドラインや共同研究を基盤とする部分が大きいです。こうした連携が弱まると、研究環境や治療基準の国際的な整合性が揺らぐリスクもあります。


結びに

アメリカのWHO脱退は世界の公衆衛生体制における大きな変化を象徴しています。政治的な動機や法的な手続きの問題はもちろん重要ですが、それ以上に「国際的な連携による健康安全保障」が今後どのように維持・再構築されるかを見極めることが、私たち医療者にとって重要です。

特に眼科診療の現場では、感染症情報やワクチン関連データ、国際的な疾患対策の動向に注意を払いながら、患者さんに信頼できる医療情報を提供し続ける姿勢がこれまで以上に求められています。

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