浴槽内死亡の原因を血液検査所見から推定する:論文紹介
清澤のコメント:6日に54歳で亡くなった女優で歌手の中山美穂さんの死因が8日、入浴中に起きた不慮の事故によるものだったことが分かった。検視の結果、事件性はないことも確認された、という事でしたが、時あたかも日本医師会雑誌に「浴槽内死亡の原因を血液検査所見から推定する:吉田謙一」という記事が掲載されていました。その要旨と結論部分を採録いたします。この記事を読むと、事件性の無い浴槽内での死亡という事が、「何らかの原因で失神して溺水に至る」という事だと理解できます。この論文の前文部分では「死因が医師によって病死と災害死(溺死)に分かれるが、生命保険では災害死の場合に病死の場合より受け取る保険金が高額なため、医師による診断の違いが紛争要因になる」こともあるという事にも言及されていました。
――抜き書き―――
浴槽内死亡の原因を血液検査所見から推定する
吉田謙一他、日本医師会雑誌2024.12(153巻9号999-1003 抜き書き)
要旨:多くの日本人高齢者が、特に冬季に浴槽内で死亡している。本研究の目的は、浴槽内死この病態を死体血の臨床検査所見から解明することである。研究対象者は、監察医が検楽した大阪市内の浴槽内死亡の38名。すべて高齢者で、9割近くに心不全マーカーNT-proBNP高値とアルブミン値を認め、急性・慢性高血糖、腎不全を示す事例も多かった。CT所見上では、大半に気道内の液体、約8割に冠動脈石灰化を認めた。以上の結果より、浴槽内死亡例の多くに心不全、急性・慢性高血糖、慢性腎臓病、および冠動脈硬化を発症要因として、入浴が失神を誘発し、浴槽内に倒れ込んだと推定される。血液検査は、浴槽内死亡事故例の死因究明に確かな診断根拠を付与する。救急医療においても、隠れた既往症や容態急変の原因を明らかにすることが期待される。
キーワード:浴槽内死亡、心不全、NT-prOBNP、アルブミン
まとめ:本研究の結果をもとに考察した浴槽内死亡の機序を図示する。
浴槽内死亡例の多くに、死体血の血液検査が心不全(大半が生前の病歴なし)、低アルブミン血症.糖尿病、高血糖、慢性腎臓病等の存在を示し、CT所見が冠動脈石灰化を示した。
心不全患者の多くは、入浴時の血圧低下に対して代償的な心拍出量増加の障害または不整脈から失神し、浴槽内に倒れ込んでいると推測される。また、心不全、冠動脈硬化、加齢に伴う圧受容体反射鈍化等の背景の下、入浴が失神による浴槽内倒れ込みを誘発していることもあると推測される。一方、糖尿病は高血糖により、慢性腎臓病は電解質異常に伴う不整脈により、失神に続く浴槽内倒れ込みを誘発している可能性があると推測される。
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