ビジュアルスノウ

[No.3649] 脳損傷によるビジュアルスノウ:動画

【退役軍人エリックさんの挑戦】

今週のVSSに関する話題としては、ビジュアルスノウイニシアチブの作成した動画を紹介します。この患者は、退役軍人で、作戦中に爆発に会って脳を損傷したという経歴を持っています。多くのVSS患者は通常この様な病歴はありません。この要旨を読むかあるいは末尾の動画(英語ですが)をご覧ください。

見えない視覚障害「ビジュアルスノウ症候群」との闘い

米国メイン州に暮らすエリック・ヒルトンさん(元特殊部隊衛生兵)は、20年以上にわたり「ビジュアルスノウ症候群(Visual Snow Syndrome, VSS)」に悩まされています。VSSは目の病気ではなく、脳の情報処理に関わる神経的な問題とされ、目の検査で異常が出ないことも多いため、患者本人が症状を訴えても理解されにくいという厄介な疾患です。

エリックさんの場合、きっかけは軍勤務中に受けた外傷性脳損傷(TBI)でした。IED(即席爆発装置)の爆風を間近で浴び、目の前が真っ白にフラッシュした瞬間、細かなドットが視界に現れたのが「ビジュアルスノウ」の初期症状でした。当時はこの症候群の存在自体が知られておらず、本人がどれだけ訴えても「目に異常はない」と医師に言われ、長い間孤立と混乱の中で過ごすことになりました。

彼の症状は視界全体に細かなチラチラしたノイズ(まるでアナログテレビの砂嵐)が現れるもので、それに加えて光過敏、頭痛、認知の混乱、目の焦点が合わない、幻視に近い現象なども生じていました。特にLEDライトには極度に過敏で、夜間の車のライトなどは苦痛そのものでした。

そんな中、エリックさんは「Visual Snow Initiative(VSI)」という非営利団体と出会います。VSIはVSSに苦しむ人々のために、情報の発信や医療機関との連携、研究支援などを行う団体で、彼にとってそれは“救い”でした。初めて「自分と同じ症状に向き合っている人々がいる」と知り、専門家の存在を教えてくれたのもこの団体でした。

VSIの紹介で、彼はテキサス州プレイノにある「NeuroVision Associates」で12週間の視覚神経リハビリ(Neuro-Optometric Rehabilitation Therapy: NORT)を受けることになります。これは、視空間認知や眼球運動のトレーニング、感覚刺激への順応などを通じて、脳の神経回路を再構築しようとするリハビリ療法です。

治療初期は過去の外傷体験(PTSD)も呼び起こされ、苦痛や不安が強まりました。けれども、「娘の顔をはっきり見たい」という父親としての思いが、彼の治療を支える大きな力となりました。徐々に視界の明瞭さが増し、眼精疲労や頭痛の軽減も感じられるようになります。

特に注目されたのが、特製のコンタクトレンズ(赤や青の光を遮断して緑系の光のみを通す)による症状の緩和です。彼はこのレンズを装着して水族館や動物園に出かけるようになり、「夜間の運転時、LEDライトに以前ほど苦しまなくなった」と語ります。

この治療を通じて、彼は自らの脳と視覚の仕組みを深く理解するようになりました。例えば「ピントが合わない」と思っていたのは、実際には脳が視覚情報をうまく処理できていなかったということで、それを少しずつ再訓練していくことで症状が軽減していったのです。実際に、視覚検査でも「眼の寄せ運動(輻輳)」や「ピント合わせ能力(調節)」の改善が客観的に確認されました。

治療の成果を一言で言えば、「生活の質(QOL)の向上」です。以前は日常のすべてが苦痛だったエリックさんが、今は「ストレスが減り、家族との時間をより楽しめるようになった」と語ります。

彼の語る最後の言葉は、多くのVSS患者やそのご家族にとって希望となるでしょう。

「完治したわけではない。でも、自分が自分であることを取り戻せた。家族と生きるための勇気を、もう一度持てた。これは間違いなく、やってよかった治療だった。」


※このお話は、Visual Snow Initiative(https://www.visualsnowinitiative.org/)が公開した映像をもとに編集・構成したものです。VSSは日本ではまだあまり知られていない病態ですが、実際には世界人口の2〜3%が何らかの症状を抱えていると推定されています。患者さんの声を届けることが、理解と支援の第一歩です。

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