ビジュアルスノウ

[No.3682] ビジュアルスノウの理解と対応;ハン博士の動画 第2部

ビジュアルスノウ症候群(VSS)の理解と対応:最新の視覚リハビリの現場から

(ハン博士の動画第二部です)

ビジュアルスノウ症候群(Visual Snow Syndrome, VSS)とは、視界に常にチラチラとした「雪」や「砂嵐」のようなノイズが見える状態を指します。患者の訴えは多様ですが、通常の眼科検査やMRIなどの画像検査では異常が見つからないことが多く、「気のせい」などと誤解されやすい疾患です。

発症のきっかけと年齢層ごとの傾向

患者への問診から、発症には以下のような要因が関係していることがあります:

  • 10代前半(1214歳):幼少期のウイルス感染後に発症したと推測される例もありますが、本人はそれが「普通の見え方」だと思っていたことも。
  • 20:幻覚作用のある薬物(幻覚剤)の使用歴が関与する例があり、特に麻酔との併用が引き金になることも。
  • 中年以降:自律神経系の不調(POTS)や自己免疫疾患の関与が疑われるケースも。

このように、発症背景は年齢や生活背景によって異なるため、丁寧な問診が重要です。

診療の第一歩:否定されてきた患者に寄り添う

多くの患者は、複数の専門家に診てもらいながら「異常なし」と言われ続け、心の傷を負っています。まずは「あなたの症状は実在するものであり、理解されるべき症状である」と伝えることが、診療の第一歩です。

次に、不安軽減のための方法(カウンセリングや環境調整)を紹介し、視覚リハビリの可能性を示していきます。

治療の工夫:注意の方向転換と自律神経の調整

VSSの症状そのものはすぐに消せませんが、以下の工夫で症状の感じ方を軽減できます:

  • 注意を別の視覚課題に向ける:例えば、両眼視や立体視の訓練を通じて「雪」への注意を薄れさせる。
  • 自律神経の緊張緩和:交感神経が過剰に働くと症状が悪化するため、リラックスを促す訓練(呼吸法など)を並行して行います。
  • 特殊なレンズの使用FL-41(ローズ色)やオメガ(紫がかった色)、緑色フィルターなどが、偏頭痛やVSSの症状軽減に有効な例があります。試用用レンズを使い、最も合う色調を患者ごとに探ります。

視覚リハビリ(NORT)の進め方

Neuro-Optometric Rehabilitation TherapyNORT)は、3段階で進められます:

  1. 片眼トレーニング:遮光パッチなどを用いて、片目ずつ焦点合わせや眼球運動の練習を行います。
  2. 両眼トレーニング:両眼での協調作業を訓練。混雑した視覚情報処理が苦手な患者に対して、見え方の統合を促します。
  3. 多感覚統合訓練:視覚に加えて、平衡感覚(バランス)や聴覚(メトロノーム音)などを同時に処理する能力を高めます。

この訓練は数週間から数か月かかりますが、最終的に「雪が気にならなくなった」と感じる患者も少なくありません。

補完療法:マインドフルネス、栄養、運動

近年注目されているのが、**マインドフルネス認知療法(MBCT**です。ストレス軽減や自律神経の安定に寄与し、症状の軽減につながる可能性があります。また、マグネシウムなどのサプリメント、規則的な運動、栄養療法も、頭痛や視覚症状の緩和に有効とする報告があります。

薬物治療の限界と今後の展望

薬物療法(抗てんかん薬など)は一部で効果を示すこともありますが、多くの患者では「劇的な改善」は見られていません。今後は、脳の視覚野の過敏性や神経活動の波長に着目した研究が進めば、より的確な治療法が開発される可能性があります。

まとめ
VSS
は見た目に異常が出にくく、患者本人だけが苦しむ「見え方の異常」です。診療では、まず患者の訴えを認め、不安を軽減しながら、特殊レンズや視覚訓練を組み合わせた多面的なアプローチが有効です。薬だけに頼らず、心理的・神経的な側面にも目を向けた総合的支援が求められています。

この動画の書き起こしの日本語訳の全文です;

以下に、元の英語スクリプトをできるだけ省略せず、素人にも理解できるよう文法的に整えた日本語に翻訳しました。

視覚性スノウ症候群(Visual Snow SyndromeVSS)の発症パターンと誘因について

私たちが新たに診るVSSの患者さんに対しては、まずいくつかの質問をします。それは症状の起源を探るためです。たとえば、患者さんが1214歳くらいであれば、過去にウイルス感染を経験したことがきっかけであった可能性があります。ただ、当時は年齢が若すぎて「こう見えるのが普通ではない」と気づかなかったケースもあります。

20代の患者では、幻覚剤の使用が関与していることもあります。彼らはアルコールではなく、より頻繁に幻覚剤を使う傾向があります。そのため私は静かに尋ねるんです。「最近、幻覚剤を使いましたか?」と。また、術前の麻酔と幻覚剤の併用が症状を引き起こす可能性があるという研究もあります。これらを踏まえて、いくつかの質問を重ねます。

中年層では、POTS(起立性頻脈症候群)や自己免疫疾患などが背景にある場合もあります。ですから、私は年齢ごとに違う視点で原因を探るようにしています。

非視覚的な要素とトリガーへの対応

VSS患者さんに最初に行うのは「あなたの症状は実在するものです」と理解してもらうことです。多くの患者は「それは気のせいだ」と言われ、たくさんの病院を回ってきています。MRIなどの検査もすでに受けている場合が多いです。ですから、「これは実在する症状です」とお伝えするのが出発点です。

次に、不安感が強い方も多いので、少しでも安心してもらう方法を考えます。眼科的な対応として何ができるかを丁寧に説明し、「失明することはないし、悪化することもない」と明言します。

症状を和らげるためには、症状に意識を集中しすぎないようにすることが重要です。たとえば「雪のようなノイズが見える」とそこばかり注目すると、余計に悪化します。代わりに視力トレーニングや立体視の訓練に集中することで、ノイズの存在を忘れる瞬間が生まれます。

ただし、自律神経系(とくに交感神経)の過活動があると、症状は悪化します。特定のレンズが焦点調節を強く要求する場合、そのストレスが悪化因子となるのです。ですので、リラックスする技術も並行して学んでいただく必要があります。

有効なカラーフィルターと推奨ブランド

2023年に私たちのグループで行った後ろ向き研究では、VSSと片頭痛が高頻度に併存することがわかりました。そこで、片頭痛の頻度や強さを軽減できるカラーレンズ(たとえばFL-41や緑色系のレンズ)を活用することが、VSSにも有効だと考えています。

実際、FL-41や紫がかった「オメガ」と呼ばれる色のレンズが有効という報告が多く、Brain Power Inc.BPI)が提供するティントレンズや、英国Serium社のカラー計測付きレンズを使用しています。Chadwickというラボでも特注でレンズを作成してもらうことがあります。

開業医の先生方には、FL-41やオメガティントの試用セットを取り寄せて、実際に患者さんに試してみることをお勧めします。

神経眼科的リハビリ(NORT)とその効果

視覚性スノウ症候群に対して神経眼科リハビリ(NORT)は有効です。とくに症状が顕著な患者さんには、集中力の回復や症状の30%軽減などが見られるケースもあります。ただし、これは眼鏡を渡して終わりというものではなく、時間的な投資が必要です。

軽度な症状の方でも、実施する価値はあります。症状にとらわれず、他の能力向上に意識を向けるようになることで、自然にVSSの訴えが薄れていくケースもあります。

NORTのステップとその内容

NORTには3段階があります。

  • フェーズ1:片眼ずつのトレーニング。たとえば黒いアイパッチが症状を悪化させる患者には、不透明な白のパッチを使用することで改善することがあります。
  • フェーズ2:両眼を使ったフォーカスや視線追従トレーニング。とくに両眼での統合が困難な方に焦点を当て、視線のリラックス方法を教えます。
  • フェーズ3:多感覚統合。立位バランス、音刺激、前庭機能を組み合わせて、全身の感覚と視覚系の調和を図ります。

マインドフルネス認知療法(MBCT)について

私は患者さんにMBCT(マインドフルネス認知療法)を積極的に勧めています。私自身、慢性痛の治療で心拍変動や呼吸法を使ったマインドフルネスを経験し、大きな効果を感じました。仲間の医師の中には、運動、栄養、MBCT、心拍変動の調整を組み合わせてVSS治療に取り入れている人もいます。

栄養や運動の役割

特に脳震盪後のVSS患者では、マグネシウムなどのサプリメントや運動が有効です。プライベートクリニックではこれらを包括的に提供している例もあります。私たちのような大学機関では制限がありますが、必要に応じて外部紹介を行っています。

薬物療法に関する経験

薬物療法(抗てんかん薬など)を使っても大きな改善がなかったという声もあります。一部の人には少し効果があるようですが、多くの場合、継続するだけの明確なメリットは得られていません。

今後の研究の方向性

今のところ、外科的治療や特定の薬剤でVSSを治す方法は見つかっていません。けれど、将来的には「脳の特定波長への過敏性」など、神経電気的な要因に注目したアプローチが期待されます。どの脳領域が関与しているのかを画像的に特定できる技術が開発されれば、新たな治療法が見えてくるかもしれません。

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