眼科医療経済等

[No.3737] 医師の「自律性」を守るルール ― 医療スタッフ細則とは何か?

米国の医療界では、ファンドに支配された病院に雇われる医師が増え、プライベートエクイティー(ファンド)という言葉があふれています。これに対抗するJAMA2025714日号の論説「医療スタッフ細則と共有ガバナンス」(McBride & Richman)の要点を、素人にもわかりやすくまとめました。

医師の「自律性」を守るルール医療スタッフ細則とは何か?

アメリカでは、昔ながらの個人経営の医師が減り、多くの医師が病院に雇われる時代になっています。しかしこの変化には落とし穴があります。病院に雇われると、医師としての専門的判断が経営や管理の都合で制限されることがあり、患者への医療の質にも悪影響が出るおそれがあるのです。

そんな中で注目されているのが、「医療スタッフ細則(Medical Staff Bylaws」という文書です。これは、病院の中で働く医師たちの権利と責任を定めたルールブックです。病院が連邦医療制度(メディケアなど)に参加するためには、この細則が必要とされており、病院の運営ルールとしても機能します。

細則には例えば以下のようなことが書かれます:

  • 医師として働くための資格条件
  • 医療行為に関するルール(記録の書き方、診療の流れなど)
  • 医師の診療権の停止や終了の手続き
  • 医師が病院の運営に意見する方法

つまり、医師が単なる「従業員」ではなく、「専門職」としての自律性を保ちながら働くためのルールなのです。例えば、救急現場の混雑、安全でない患者移送、過剰な事務作業など、病院の管理上の問題が医療の質を脅かす場合もあります。こうした状況に医師側から声を上げられるのも、この細則があるからです。

細則には法的効力もあります。病院がこのルールに反する行動をとった場合、裁判で医師が勝訴した例もあります。また、医療スタッフ側が細則の改正を提案することもでき、その内容は病院の運営委員会が最終的に承認する仕組みとなっています。こうした「共有されたガバナンス」は、医師と病院経営側の協力関係を築く上でも重要です。

ただし、細則にも限界があります。給与や待遇などの交渉には向きませんし、すべての不満を解決できる万能薬でもありません。また、実際に病院が細則を一方的に破棄しようとした例(ミネソタ州)もあり、最終的に裁判で細則が守られたものの、大きな時間と費用がかかりました。

このように、医療スタッフ細則は、医師の専門性と患者の安全を守るための基本的な仕組みです。とくに医師が組織の中で働く時代において、このルールの存在を見直すことが強く推奨されます。

 

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