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[No.3752] 70年ぶりの奇跡?松本の庭に舞い戻った蛍

70年ぶりの奇跡?松本の庭に舞い戻った蛍

先日、久しぶりに松本の実家に帰省しました。草刈りを頼んでいた近所のおじさんが、繁茂していた庭の草をすっかり刈ってくれていたとのことで、夜になって涼みに外へ出てみました。

街灯も届かない真っ暗な庭。井戸から自噴する水が水路を静かに流れ、その脇にあるアジサイはすでに花を終えて葉だけが青々と繁っています。その時です。アジサイの葉の間から、一秒ごとにピカリピカーリと光が点滅していました。

「まさか……蛍?」

慌ててスマホのライトで照らしてみると、1.5センチほどの黒い体に赤い頭部を持つ小さな昆虫が葉の上に。確かに蛍です。

この庭では少なくとも70年間、一度も蛍を見たことがありませんでした。それが今年、草刈り後の暗い庭に突然現れたのです。まるで時間を超えた贈り物のような、幻想的な出来事でした。


松本平野部にも蛍が帰ってきた?

一般的に、蛍は水のきれいな川や湿地、田んぼなどに棲むと思われています。長野県内では、辰野町や信州新町などが「ホタルの名所」として知られますが、実は松本の平野部でも、条件が整えば蛍は出現するのです。

今回、庭にいたのはおそらくヘイケボタル(平家蛍)。ゲンジボタルよりも小さめで、田んぼや浅い水路の周辺を好みます。光も控えめで、一秒に一度の点滅が特徴。まさに今回の蛍と一致します。

蛍が見られた背景には、いくつかの好条件が重なったと考えられます。


なぜ今、庭に蛍が現れたのか?

■ 1. 自噴水の存在と水路

庭の脇には今も自噴する井戸があり、その水が小さな水路に流れ込んでいます。この流れが、蛍の幼虫が育つ環境として適していた可能性があります。水が淀まず流れがあり、なおかつ清潔であることが重要です。

■ 2. 草刈りによる明るさと風通し

草刈りが行われた直後だったことも大きいでしょう。光が届くようになった葉の上や、風通しのよくなった草の間が、蛍の成虫にとって過ごしやすい環境になった可能性があります。

■ 3. 農薬の少ない環境

周囲の畑などでも農薬の使用が減ってきている地域では、蛍が戻ってくる例が各地で報告されています。松本市内の一部でも、環境配慮型の農業が進められており、それが平地部の蛍にも好影響を与えているのかもしれません。


来年もこの光景を見たいから

蛍の成虫はわずか1〜2週間ほどの短命です。その一生は静かではかなく、だからこそ人々の心を打ちます。来年もまたこの小さな光に会えるよう、私たちにできることがあります。

  • 夜間の庭のライトを減らす(光害の防止)

  • 水辺の環境を大切にする

  • 農薬や除草剤の使用を控える

  • 蛍を捕まえて持ち帰らない

今回の発見は、偶然かもしれません。しかし、自然と共に暮らしを整えていくことで、「偶然」が「日常」になる日が来るかもしれません。


水音と蛍を動画でどうぞ

下に添えた動画では、井戸の水音を背景に、葉の上で休む小さな虫を見ることができます。どうか一度、耳を澄ませ、目を凝らして、この美しい虫をご覧ください。(動画準備中。このサムネイルは合成画像です。)

追記:蛍の幼虫の生態と清流の必要性

蛍の幼虫は、特にゲンジボタルやヘイケボタルのような水生種において、その成長に清らかな水環境(清流)が不可欠です。彼らは水辺の湿地や小川に産みつけられた卵から孵化し、水中で暮らしながら主にカワニナ(巻貝の一種)を捕食して成長します。

この幼虫たちは、体の表面に気管鰓(きかんさい)という構造を持ち、水中で酸素を取り込む特殊な呼吸を行います。そのため、酸素を多く含む清流のような流れのある綺麗な水が必要なのです。水が汚れたり、流れが止まったりすると酸素が減り、呼吸ができずに死んでしまいます。

また、ゲンジボタルの幼虫は約10か月間を水中で過ごし、春になると陸に上がって土中で蛹(さなぎ)になり、やがて発光する成虫へと変わります。したがって、水質の良さと陸の環境の両方が揃わないと、成虫になるまでの生活が成り立ちません

蛍の幼虫が棲める環境は、私たちの身近な自然の「健康度」を示す指標でもあります。蛍がいるということは、そこに清らかな水と豊かな自然が保たれている証なのです。

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