白内障

[No.3757] 幼稚園児のお昼寝と思い出と──眼の健康にも関係ある「休む力」

幼稚園児のお昼寝と思い出と──眼の健康にも関係ある「休む力」

夏の暑さが本格的になってまいりました。気温が30度を超える日が続くと、昼食後には自然と体がだるくなり、つい横になりたくなります。私も年齢を重ねたせいか、最近では食後に15分ほど目を閉じることが、午後の診療を集中して行うための大切な習慣になっています。

そんな折、ふと思い出すのが、幼稚園時代の「お昼寝」の記憶です。冷たい床に敷かれたゴザやマットの上で、みんなで静かに横になったあの時間。先生が流してくれた子守唄や、教室の窓から入る風、そしてかすかに聞こえるセミの声──。あの記憶が、今でも暑い日の午後にふと蘇るのです。

幼稚園におけるお昼寝の役割

幼稚園や保育園では、特に3歳~4歳ごろの子どもたちにとって「お昼寝(午睡)」は非常に重要な活動です。午前中の活動で消耗した体力を回復するだけでなく、心の安定や情緒の発達、さらには生活リズムの確立にも役立ちます。

最近では、昼寝によって記憶の定着や学習効果が向上するという研究も報告されています。特に言語や運動の学習に関わる脳の神経ネットワークが、昼寝中に活性化することがわかっており、幼少期の「休む時間」は、成長と発達に欠かせないプロセスの一部であることが明らかになっています。

また、昼寝の際には穏やかな音楽──たとえばブラームスの子守唄や波の音などが流されることもあります。これは副交感神経を優位にし、リラックスを促す効果があるためです。

眼科的な視点から見る「昼寝」の意義

眼科医としての立場から見ても、昼寝は「眼の健康」にとっても意味深い時間です。

まず、午前中に酷使された眼を休ませることで、眼精疲労の予防になります。子どもといえども、近年はタブレットやスマートフォン、テレビなどの「視覚刺激」にさらされる時間が増えており、視覚情報処理による負荷は以前に比べて格段に高まっています。特に近業作業(近くを見る作業)を長時間続けると、調節機能が疲労し、一時的な視力低下やピントが合いにくくなることがあります。

また、昼寝によって涙液の循環も促され、眼表面の安定化につながります。まばたきが少なくなりがちな現代の生活において、眼表面(角膜や結膜)を涙で潤す時間を確保することは、ドライアイ予防の観点からも大切です。

さらに、寝ている間はまぶたが閉じて光を遮断しているため、網膜に過剰な光刺激が加わることもありません。日差しの強い夏には、短時間でも「眼を休ませる」ことが、視覚環境に適応するために有効なのです。

おわりに──「休む力」を育てる

私たちが日々診療の中で出会う眼の不調の多くは、過剰な使用と休息不足に起因しています。子どもの頃から「よく見て、よく動き、よく休む」というバランスを自然に身につけておくことは、眼の健康だけでなく、心身全体の健やかな成長にもつながるのだと感じています。

大人になっても、あの頃のように静かに目を閉じて「無になる時間」を持つことは、案外大切なセルフケアなのかもしれません。この夏、もし時間があれば、昼下がりの10分間だけでも、まぶたを閉じて心と眼を休めてみてはいかがでしょうか。

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