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[No.3759] 医学生が「臨床医」にならない理由?―医学教育における「逃げ道現象」とは


医学生が「臨床医」にならない理由?―医学教育における「逃げ道現象」とは

最近のアメリカの医学教育界では、「Escape Valve(逃げ道)現象」という言葉が注目されています。これは、医学部を卒業しながらも、従来のように臨床医を目指さず、別の道を選ぶ学生が増えているという現象を指します。

2025年7月21日号のJAMA Neurologyに掲載されたJoseph E. Safdieh医師の論説では、この「逃げ道現象」が米国の医学教育全体に与えている影響について述べられています。

◆ なぜ臨床医を目指さないのか?

医学部に入る学生の多くは、もともと「医師として人を助けたい」という動機を持っています。ところが、在学中や卒業後、臨床現場の過酷さや、研修医制度の負担の大きさ、ライフバランスの難しさなどを目の当たりにして、「この道は自分に合っていない」と感じる学生が増えているのです。

その結果、次のような進路を選ぶ例が出てきます:

  • 医療行政・政策(官僚、コンサルタント)

  • 製薬・医療機器産業

  • 起業やITベンチャー

  • 研究職

  • 医療ジャーナリズムや教育分野

これらはすべて「医学的知識を活かせる」ものの、伝統的な臨床医とは異なるキャリアです。

◆ この現象が意味すること

著者のSafdieh医師は、こうした動きが一概に悪いとは言えないとしながらも、いくつかの懸念点を挙げています。

  • 医学部教育が本来目指している「患者を診る臨床医」の育成という使命が揺らぐ可能性

  • 臨床医の不足を招き、医療提供体制の持続性が危うくなる

  • 医学教育自体が時代の変化に対応できていない可能性

その上で、「学生が本当に自分の適性や志を活かせる環境を整えると同時に、臨床医という道を選びやすくする改革が必要」としています。

◆ 日本でも他人事ではない?

この現象はアメリカ特有のものではなく、日本の医学教育・医師キャリア形成にも通じる問題です。臨床研修の義務化や、医療現場の負担増、医療崩壊の議論の中で、若手医師の燃え尽きや離職が深刻化しています。

眼科という比較的“逃げ道”として選ばれやすい診療科においても、使命感と柔軟性を両立したキャリアモデルの構築が必要です。私たちもまた、医療者の多様な道を受け止め、支援していく姿勢が求められているのかもしれません。

(参考文献:JAMA Neurology. Viewpoint: The Escape Valve Phenomenon in Medical Education. Joseph E. Safdieh, MD, July 21, 2025)

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