日本におけるビジュアルスノウ症候群(VSS)の特徴と片頭痛との関連
~視覚のノイズ現象と屈折の左右差に着目した最新研究~
英語論文タイトル:
Characteristics of visual snow syndrome in Japan and its association with migraine
日本語訳タイトル:
日本におけるビジュアルスノウ症候群の特徴と片頭痛との関連
著者:
Yukihisa Suzuki(鈴木幸久)¹²³、Motohiro Kiyosawa(清澤源弘)⁴
¹三島総合病院眼科、²東京神経画像研究班、³東京科学大学眼科視覚科学教室、⁴自由が丘清澤眼科
掲載誌・巻号:
Cephalalgia(セファルアルジア/国際頭痛学会誌)2025年 第45巻第7号、pp. 1–10
DOI:10.1177/03331024251360337
研究の背景
ビジュアルスノウ症候群(VSS)は、アナログテレビの「砂嵐」のようなちらちらした視覚ノイズが常時見える現象で、視力検査などで異常が見つからないにもかかわらず、日常生活に支障をきたす患者もいます。
欧米の研究では、VSSは主に若年成人に多く見られ、片頭痛(特に前兆を伴うもの)との関連が示唆されてきました。しかし、健康な対照群との比較が少なく、眼科的な屈折値の左右差(不同視)との関係についても検討された例はほとんどありませんでした。
研究の目的
本研究では以下の2点を明らかにすることを目的としました。
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VSS患者における片頭痛の有病率を、健康対照群と比較する
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VSS患者における左右の屈折度(球面等価度数)の差(不同視)の有無を調べる
方法
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対象:VSS患者148名(男性54名・女性94名、平均年齢30.0歳)と、健康な対照群157名
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検討項目:
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両眼の球面等価屈折度数の平均と左右差
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片頭痛の有無
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各VSS症状(パリノプシア、眼内現象、夜盲、羞明、感覚過敏、耳鳴)と片頭痛・オーラの関係
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統計解析:多変量ロジスティック回帰分析を用いて、片頭痛とVSS症状との関連を解析
結果
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VSS群では片頭痛の頻度が有意に高く、また**左右の屈折値に大きな差(不同視)**がみられました。
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**パリノプシア(残像視)**と片頭痛には統計学的に有意な関連がありました。
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経過観察中、10人のVSS患者では自然軽快が確認されました。
考察
VSSは片頭痛と強い関連をもち、視覚症状の中でも特に残像(パリノプシア)とのつながりが強いことが明らかになりました。また、**左右の屈折値の差(不同視)**がVSSにおいて高頻度にみられたことは、新たな眼科的知見です。
若年層にVSSが多い背景には、同時期に片頭痛の発症頻度が高いことも影響している可能性があります。
結論
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VSSは片頭痛と密接に関連しており、**左右の屈折差(不同視)**の存在も示されました。
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眼科的屈折検査や問診は、VSSの理解と診断において重要な役割を果たす可能性があります。
キーワード
不同視(anisometropia)、オーラ(aura)、改善(improvement)、片頭痛(migraine)、パリノプシア(palinopsia)、ビジュアルスノウ症候群(visual snow syndrome)
清澤眼科院長のコメント
今回の私も共著者に入れていただいた研究では、視覚の異常を訴えるVSSという比較的新しい疾患に対し、日本から初めて大規模な疫学的知見が示されました。VSSは眼科では診断の難しい疾患ですが、「不同視の評価」や「片頭痛の問診」が重要なヒントになるかもしれません。
また、一部の患者には自然寛解の可能性もあることが示唆され、希望が持てる内容となっています。今後も視覚と脳機能の相関に注目し、VSSの理解を深めていきたいと考えています。
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