小児の眼科疾患

[No.3968] アメリカで小児ワクチンが見直しの対象;;Nature 掲載された記事紹介

アメリカで小児ワクチンが見直しの対象に

みなさんに今日は、最近イギリスの科学誌 Nature(ネイチャー) に掲載された記事をご紹介します。記事の題名は「アメリカで見直し対象となる小児ワクチン:何がかかっているのか」というもので、2025年9月12日にオンライン公開されたものです。Nature は世界的に信頼されている学術誌で、研究だけでなく科学政策や医療に関する重要なニュースも取り上げています。今回の記事では、アメリカで子どもに接種されているいくつかのワクチンが、再び議論の俎上にのぼっていることが報じられました。


どんなワクチンが議論されているのか?

今回の焦点になっているのは、

  • COVID-19ワクチン

  • B型肝炎ワクチン

  • 麻疹・ムンプス・風疹・水痘混合ワクチン(MMRV)

    の3つです。当初は 妊婦さんへの Respiratory Syncytial Virus(呼吸器合胞体ウイルス、RSV)ワクチン も検討項目に入っていましたが、最終的に今回は外されました。

この議論を行うのは、米国疾病予防管理センター(CDC)の助言機関である 予防接種諮問委員会(ACIP) です。本来この委員会は科学的なデータを基に「どのワクチンを、誰に、いつ接種するのが良いか」を決めてきました。ところが最近、米国の保健長官に就任したロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(反ワクチンの立場で知られる人物)が委員を大幅に入れ替えたため、専門家の間で「科学的な根拠よりも政治的な意図が優先されてしまうのではないか」と不安が広がっています。


それぞれのワクチンをめぐるポイント

COVID-19ワクチンは、アメリカでは以前は6か月以上のすべての人に推奨されていましたが、現在は65歳以上や重症化リスクの高い人に対象が絞られています。子どもに対する効果も研究されており、特に乳幼児では発症や重症化をある程度防ぐデータがあります。大きな安全性の問題は報告されていませんが、会議では小児の死亡報告をどう扱うかが議論になりそうです。

B型肝炎ワクチンは、現在は生まれた直後の赤ちゃんに接種することが標準ですが、「母親が感染していないなら必要ないのでは」との意見も出ています。ただ、母親の検査が偽陰性になることや、検査結果がうまく伝わらないこともあるため、専門家は「生後すぐに打つのが最も確実」と考えています。実際、1990年代に新生児接種を始めて以来、アメリカでのB型肝炎の患者数は大幅に減りました。

MMRVワクチンについては、1~2歳で打つと熱性けいれんのリスクが少し増えることが分かり、これまでCDCはこの年齢では分けて接種するよう勧めてきました。今回の委員会では「4歳未満にはMMRVを使わない」とさらに強い言葉にする提案もあるようです。ただし混合ワクチンは来院回数を減らせるという利点もあり、バランスが難しいところです。

Respiratory Syncytial Virus(RSV)ワクチンについては、乳児期の入院を防ぐ可能性があり、妊娠32〜36週の妊婦さんに接種する方法が検討されてきました。臨床試験では早産の割合がやや高く見えたものの統計的な有意差はなく、実生活ではモノクローナル抗体が行き届かない場合に母親ワクチンが有効な補完策となり得ます。ただし今回のACIP会議では RSV ワクチンは議題から外れています。


なぜこの問題が重要なのか?

ワクチンの接種勧告は、その国の公的保険の対象や接種率に直結します。つまり、委員会の決定ひとつで「打てるかどうか」「費用負担があるか」が大きく変わってしまうのです。これまで長年の研究で安全性と有効性が確認されてきたワクチンに、もしも政治的な理由で制限がかかれば、感染症が再び広がる危険性があります。

小児ワクチンは、個々の子どもを守るだけでなく、社会全体の流行を防ぐ大切な役割を持っています。たとえば麻疹(はしか)などは、ワクチン接種が進んだおかげで日本でもほとんど見られなくなりましたが、海外では流行が再燃している地域もあります。もし接種が減れば、再び大きな流行が起こる可能性も否定できません。


まとめ

今回のNatureの記事は、アメリカでの議論を伝えるものでしたが、私たちにとっても無関係ではありません。科学的なデータに基づいてワクチンの有効性や安全性を評価し、子どもたちを守る姿勢を持ち続けることの大切さを改めて考えさせられます。

私の医院でも患者さんから「ワクチンは本当に必要なのですか?」と聞かれることがあります。そのとき私は、ワクチンが持つ「自分と周りを守る力」と「病気を社会から減らす力」の両方を説明しています。今回のニュースは少し専門的ですが、安心して子どもたちが健康に成長できるように、世界中の医師や科学者が努力していることを知っていただければと思います。


清澤院長のコメント

全体として、米国のワクチン政策がトランプ政権下で後退していることがうかがわれます。科学的に積み上げられた成果が政治的な動きで揺らぐことは、世界の公衆衛生にとっても大きなリスクだと感じます。

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