高齢者の顔面骨骨折 ― 原因・分類・治療・予後と予防法
① 高齢者が顔面を骨折する主な原因
高齢者における顔面骨折の最大の原因は「転倒」です。特に、
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階段や段差でのつまずき
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濡れた床での滑り
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視力低下やバランス機能の衰え
などが背景にあります。加齢により骨が脆くなる「骨粗しょう症」も関与し、若い人なら打撲で済む衝撃でも骨折に至ることがあります。
② 顔面骨折の分類
顔面は複雑な骨で構成されており、骨折も部位によって症状や治療が異なります。代表的なものは以下です。
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眼窩底骨折(ブローアウト骨折)
眼の下の骨が陥没し、複視や眼球運動障害を生じます。 -
頬骨骨折
頬の突出が失われ、顔貌の変形や開口障害が起こります。 -
上顎骨骨折
顔の中央部が沈み込み、咬合異常や鼻出血を伴うことがあります。 -
鼻骨骨折
最も多い骨折で、鼻の変形や呼吸障害を生じます。 -
下顎骨骨折
咀嚼に影響し、神経麻痺を伴う場合もあります。
③ 修復手術の方法
骨折の程度により、保存的治療(安静・冷却・鎮痛)で済む場合もありますが、多くは手術が必要です。眼窩骨折の一部を除き、これらの手術は大病院の形成外科が担当します。眼科受診の場合には、眼球と付属器を検査して形成外科に紹介します。
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プレート固定術
チタン製の小さなプレートで骨を元の位置に固定する方法。 -
ワイヤー固定
歯や骨をワイヤーで結んで安定させる方法。 -
人工骨や骨移植
骨欠損が大きい場合は、人工骨や自分の骨を移植して形を整えます。 -
眼窩底再建
眼球を支える薄い膜や人工材料で眼窩底を補強します。
近年は低侵襲手術が普及し、腫れや合併症を抑えながら早期回復が期待できます。
④ 予後
多くの顔面骨折は手術で形態や機能をある程度回復できます。ただし、
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眼球運動障害(複視)
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顔のしびれや感覚低下
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噛み合わせの異常
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視力障害
などが後遺症として残ることがあります。高齢者では基礎疾患や回復力の低下により、治癒に時間がかかる傾向もあります。
⑤ 予防のためにできること
顔面骨折の予防は「転倒予防」に尽きます。
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階段や駅のホームでは必ず手すりを持つ(、「三点支持」(さんてんしじ、英語では three-point contact や three-point stance))
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家の中の段差や滑りやすい床を改善する。(ゴム底の靴は濡れたリノリウム床や磨いた石タイルでは極滑りやすいです。ご注意ください。)
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視力検査や眼鏡の更新で足元を見やすくする。白内障手術も矯正視力0.6未満では勧める根拠になります
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筋力トレーニングで下肢の安定性を高める
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ビタミンDやカルシウムを摂取し骨を丈夫に保つ
といった工夫が大切です。
清澤のコメント
私の海外で活躍している高校時代の友人も転倒で顔面骨折を負い、固定修復の手術を受けたと知らせてきました。年齢を重ねると誰にでも起こり得る事故です。私自身も駅などで階段を降りる際は、必ず手すりに摑まる(3点支持をする)ように心がけています。読者の皆さんも、ちょっとした注意が大きなけがを防ぐことを忘れないでください。
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