ご近所の話題

[No.4074] 欧州でのジェンダーの今 ― 医療の現場にも広がる「多様性と平等」の視点

 

欧州でのジェンダーの今 ― 医療の現場にも広がる「多様性と平等」の視点

最近、ヨーロッパでは「ジェンダー平等(性の平等)」を社会全体で進めようという流れがより強まっています。ジェンダーとは、単に「男性」「女性」という生物学的な違いだけでなく、社会の中での役割や期待の違いを含む考え方です。つまり「性別による生きづらさをなくし、誰もが自分らしく生きられる社会を作る」ことが目標です

欧州連合(EU)は、この考えを国の政策に組み込み、政治、職場、教育、医療など、あらゆる分野で平等を推進しています。たとえば「同じ仕事をしているなら男女で賃金に差をつけてはいけない」「育児や介護は女性だけの役割ではない」「暴力や性的ハラスメントはどんな場でも許さない」といった方針です。
さらにEUは、「ジェンダー主流化(gender mainstreaming)」という考えを導入しています。これは、どんな政策を立てるときも、その影響が男女どちらかに偏らないかを必ずチェックするというものです。つまり、社会のすべての仕組みの中に「平等の視点」を入れようという取り組みです。

一方で、欧州の中にも意見の違いがあります。北欧諸国のように男女平等が進んでいる国もあれば、東欧では「伝統的な家族観を守りたい」としてジェンダー政策に反対する動きもあります。トランスジェンダー(生まれたときの性別と自分の性自認が異なる人)やノンバイナリー(男女どちらにも完全には当てはまらない人)に対する理解も国によって大きな差があります。それでも、EU全体では「誰もが差別されずに生きられる社会を作る」という方向で歩みを続けています。

こうしたジェンダーの考え方は、医療にも影響を与え始めています。たとえば、女性の体やホルモンの変化を前提にした医薬品の開発や、男性にも更年期があることの理解、また性別や性的指向による医療差別をなくす取り組みなどが広がっています。眼科の分野でも、ホルモンの変化によってドライアイや眼圧の変動が起こりやすいことが知られています。更年期や妊娠期の女性だけでなく、ホルモン療法を受けているトランスジェンダーの方にも、同じような変化が生じる可能性があります。こうした違いを理解し、診療の中で自然に配慮することが、これからの医療には欠かせません。

また、病院やクリニックの情報発信にもジェンダーの意識が求められます。「女性だから」「男性だから」という言葉を安易に使わず、誰が読んでも安心できる表現を心がけることが大切です。待合室のポスターやウェブサイトでも、多様な人々が受診しやすい雰囲気を作る工夫が求められます。

医療は、人の心と体に関わる分野です。そのため、社会の変化を映す鏡でもあります。欧州で進む「ジェンダー平等」は、決して遠い国の話ではありません。患者さん一人ひとりの背景を尊重し、誰もが安心して相談できる医療環境を作ること――それこそが、現代の医療が目指す「人にやさしい診療」につながるのだと思います。

メルマガ登録
 

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

最近の記事

  1. 欧州でのジェンダーの今 ― 医療の現場にも広がる「多様性と平等」の視点

  2. 日本臨床眼科学会2025 招待・特別講演の注目ポイント

  3. QOL損なう「光過敏症」 ~日本人は光に無防備~;時事メディカルに若倉記事