眼科医療経済等

[No.4085] 世界のがん負担、2050年には1.8倍に ― Lancet報告が示す未来予測

世界のがん負担、2050年には1.8倍に ― Lancet報告が示す未来予測

背景

がんは今や世界で心血管疾患に次ぐ「第二の死因」となっています。しかし、多くの国では正確ながん登録が整っておらず、国際的な比較や政策立案に必要なデータが不足しています。そこで、「世界疾病負担調査2023Global Burden of Disease Study 2023, GBD 2023)」では、世界204か国のがん発症・死亡の実態を分析し、さらに2050年までの予測を行いました。

目的

この研究の目的は、1990年から2023年までのがんの発生・死亡・社会的損失の推移を明らかにし、今後30年で世界のがん負担がどのように変化するかを予測することです。特に、どの地域で増加が著しいのか、どの要因ががん死に寄与しているのかを明らかにすることを狙っています。

方法

分析には、各国のがん登録、死亡記録、口頭剖検などの膨大なデータを統合。

  • 発症率は死亡率と「死亡率対発症率比(MIR)」から推定。
  • 損失寿命年(YLL)は死亡年齢と平均余命から計算。
  • 障害調整生存年(DALY)は、病気による障害(YLD)とYLLを合計して求めました。
    さらに、喫煙、飲酒、肥満、環境汚染など44の危険因子に起因するがん死亡も算定しました。
    また、社会経済的要因(社会人口学的指数)を考慮して、2050年までの予測を行いました。

結果

2023年の時点で、世界のがん新規患者は約1,850万人、死亡者は1,040万人と推定されました。がんによる健康損失は全体で27,000DALY
驚くべきことに、がん患者の6割が中低所得国で発生しており、死亡者では3分の2が低〜中所得国に集中しています。

また、1990年から2023年の33年間で、がん死亡は74%増加。危険因子によるがん死(喫煙や肥満など)も72%増していました。
今後については、2050年までに

  • 新規患者数は 3,050万人(+60.7%)
  • 死亡者数は 1,860万人(+74.5%)
    に達すると予測されています。

中でも増加が著しいのは、低所得・中所得国(+90%以上)であり、先進国の増加(+40%程度)を大きく上回ります。
一方で、年齢を調整した死亡率(人口構成を一定にして比較した値)は約6%減少
とされ、これは医療の進歩による効果と考えられます。
しかし、2030年までに「非感染性疾患による死亡を3分の1減らす」という国連SDGs目標(ターゲット3.4)の達成には、なお届かない見通しです。

結論

がんは今後も世界的な主要死因であり続けます。特に医療体制の脆弱な国々では、患者数と死亡率の増加が深刻になると予測されています。
医療資源の地域格差を是正し、予防・早期発見・治療を一体的に進めることが世界的課題です。
本研究は、がん対策が単に医療技術だけでなく、社会経済・教育・環境政策を含む包括的な努力によって成り立つことを改めて示しました。

清澤院長のコメント

この報告は、がんの「未来地図」を示した非常に重要な研究です。日本でも高齢化に伴い、がんはますます身近な疾患になっています。しかし、世界的に見ると、医療資源が少ない地域ほどがん死が増えていく構図が浮かび上がりました。
眼科の領域でも「がん診療の早期発見」や「全身疾患との連携」は重要です。例えば、眼底に転移性病変が見つかることもあり、目を通して全身の疾患を早期に察知できることがあります。
2050
年のがん医療を見据えると、「目で命を守る」医療の役割も今後ますます大きくなるでしょう。(この記事は星進悦先生に伺いました。)

出典:
GBD 2023 Cancer Collaborators. Global, regional, and national cancer burden and projections to 2050: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2023. The Lancet. 2025;406(10512):1565–1586.

メルマガ登録
 

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。