ビジュアルスノウ

[No.4088] マインドフルネスと「ビジュアルスノウ症候群」の出会い

英国ロンドンの神経眼科医スイ・ウォン(Dr. Sui Wong)によるインタビュー動画の要約を、一般の方向けにわかりやすくまとめました。

(出典:Visual Snow Initiative Interview with Dr. Sui Wong, 2025


マインドフルネスと「ビジュアルスノウ症候群」の出会い

ロンドンを拠点に神経眼科医として活動するスイ・ウォン医師は、長年にわたり「ビジュアルスノウ症候群(Visual Snow Syndrome:VSS)」の患者を診療してきました。

VSSは視界に常に「砂嵐のようなノイズ」が見える難治性の症状で、頭痛やめまい、集中力低下を伴うこともあります。原因は脳の視覚処理ネットワークの調整異常と考えられていますが、従来は効果的な治療がありませんでした。

ウォン医師は、神経科学研究に従事する傍ら、生活習慣や「マインドフルネス(心の気づき)」を通じて健康を整える方法にも関心を持っており、この二つを結びつける研究を始めました。


オックスフォード大学で学んだ「マインドフルネス認知療法(MBCT)」

マインドフルネスは、呼吸や感覚に意識を向けて「今この瞬間」を観察する心理療法です。

その中でもウォン医師が採用した「MBCT(Mindfulness-Based Cognitive Therapy)」は、うつ病や慢性疼痛などに有効性が科学的に証明されている治療法で、オックスフォード・マインドフルネス・センターで体系的に学びました。

この経験をもとに、VSSに対してもMBCTを応用できるのではないかと考え、臨床研究を立ち上げました。


初の研究と機能的MRIによる発見

2019年、ウォン医師は慈善団体の支援を受けて小規模な臨床試験を開始しました。

第一期の患者グループは2020年に完了しましたが、コロナ禍により次の段階は一時中断。それでも中間解析を行い、アメリカ神経学会で成果を発表しました。

この発表をきっかけに、Visual Snow Initiative(VSI)の協力を得て、研究に機能的MRI(fMRI)が導入されました。

その結果、MBCTを行った患者の脳では、視覚経路および「デフォルトモードネットワーク(DMN)」の機能的つながりが改善していることが示され、症状の自覚的改善とも一致していました。

この成果は「Journal of Neuro-Ophthalmology」に掲載され、VSSで脳活動の変化が客観的に確認された世界初の報告となりました。


次なる挑戦:無作為化比較試験へ

初期研究の結果を受け、現在ウォン医師らは無作為化比較試験(Randomized Controlled Trial, RCT)を実施中です。

60名のVSS患者を対象に、MBCTを受ける群と5か月待機群を比較し、どの程度の効果があるかを厳密に検証しています。

2025年末には解析結果がまとまり、学会発表と論文投稿が予定されています。


マインドフルネスがもたらす希望

ウォン医師自身も15年以上マインドフルネスを実践しており、心の安定や集中力の回復、慢性症状の軽減を体験してきました。

「ビジュアルスノウ症候群の患者さんは、長年治療法がなく苦しんできました。

しかし脳の可塑性を利用したマインドフルネス療法が希望をもたらすかもしれません」と語ります。

この研究は、心の働きが脳のネットワークにどのように影響するかを示す先駆的な試みとして注目されています。

ウォン医師は「科学的根拠をもとに、より多くの人の回復に役立てたい」と語り、VSS研究とマインドフルネスの融合をさらに発展させています。


出典

Visual Snow Initiative. Interview with Dr. Sui Wong: “Mindfulness-Based Cognitive Therapy for Visual Snow Syndrome” (2025)

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