Q;近視進行予防の目的で低濃度アトロピンを処方したところ、日中に視界がぼやけるとの訴えを生じた小児。近視用の眼鏡またはコンタクトレンズを使用してアトロピンをつけた状態て調節力が低下することが訴えの原因かと思われるが、最も穏当な対応は何か?
A: 低濃度アトロピン点眼による一過性の「視界がぼやける」訴えは、比較的よくみられる副作用のひとつです。以下に、原因の整理と最も穏当な対応を示します。
原因の整理
低濃度アトロピン(0.01〜0.05%)は、毛様体筋を軽度に麻痺させ、調節力を一時的に低下させます。そのため、近方を見るときにピントを合わせづらくなり、特に勉強時間の長い小中学生では「視界がぼやける」「黒板は見えるが手元が見えづらい」と訴えることがあります。
特に、近視用眼鏡やコンタクトレンズを使用している児童では、遠方矯正状態で近方を見るために調節を要し、この薬剤の影響をより強く感じやすくなります。
穏当な対応
- まず点眼を中止せず、投与間隔を調整して経過をみる
0.025%や0.05%のアトロピンでは一時的な調節麻痺が生じることがあります。初期のうちは隔日投与に変更し、慣れるかを観察します。多くは1〜2週間で順応します。 - 夜間点眼を徹底する
朝点眼すると日中に調節麻痺が強く出ます。必ず就寝前に使用するよう指導します。 - 近方作業時の矯正方法を工夫
遠方用眼鏡ではなく、軽い近用眼鏡(+0.5〜+1.0D加算)を併用させると快適に学習できます。
オルソケラトロジー併用例では、日中は裸眼で近方をみるためぼやけが軽い傾向があります。 - 症状が続く場合は濃度の調整
0.025%や0.05%使用時に強い訴えが続くなら、0.01%製剤へ変更します。これでも近視進行抑制効果は一定程度期待できます。 - 羞明が強い場合はサングラス指導
散瞳による光まぶしさが背景にある場合は、屋外での遮光を推奨します。
注意すべき点
- 視力低下が一時的なものであることを家族に説明し、不安を取り除くことが大切です。
- 学校生活で支障がある場合は、一時中止して再開を検討します。
- まれにアレルギー性結膜炎様の反応が生じるため、充血や痒みを伴う場合は使用を中止し再評価します。
まとめ
「近視進行抑制のための低濃度アトロピン点眼中にぼやけを訴える児童」への最も穏当な対応は、
夜間のみ点眼し、隔日投与または低濃度製剤への切り替えで経過をみる
ことです。
視界のぼやけは多くが一過性で、継続によって軽減します。近方作業への影響を最小限にする工夫(近用眼鏡併用、照明調整など)も有効です。
参考文献
- 低濃度アトロピン点眼液を用いた近視進行抑制治療の手引き(2024, 日本近視学会)
- Chia A et al., Ophthalmology. 2016;123(2):391-399.
- Yam JC et al., Br J Ophthalmol. 2019;103(4):492-497.
清澤のコメント
低濃度アトロピンは近視進行を抑える効果が確立されつつありますが、使い方の細部で患者の満足度が左右されます。点眼時刻・濃度・矯正方法の調整で、多くの児童が快適に続けられます。医師としては、家族の不安を軽減しつつ個々の生活に合わせた柔軟な対応を行うことが大切です。
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