米国の医療従事者に広がる“生活の不安”
— 医療現場にも「生活支援」の視点が必要です —
(出典:JAMA, 2025年10月22日公開
Zhong A, Gao C, Szlosek D, Nguyen D, Amat MJ, Phillips RS.
Poverty, Food Insecurity, and Housing Instability Among US Health Care Workers.)
背景
米国では今後10年間で、18万人以上の医師と20万人以上の看護師が不足すると予測されています。その背景には、過重労働やバーンアウト、そして十分ではない賃金などがあります。医療従事者の経済的な困難、つまり「貧困」「食料不安」「住宅の不安定さ」がどれほど広がっているのかを明らかにするために、JAMAに新たな研究が報告されました。医療を支える人々の生活が不安定になると、離職や医療の質の低下にもつながり、患者ケアにも影響を及ぼします。
方法
研究では、米国国勢調査局が実施した「所得およびプログラム参加調査(SIPP)」の2020〜2023年のデータを解析しました。全国から抽出された約2万世帯を対象に、医療従事者を以下の5職種に分類しました。
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医師・外科医
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看護師
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診断・治療従事者
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医療技術職
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直接ケア・支援職(介護職など)
それぞれについて、「貧困」「食料不安」「住宅の不安定さ」がどの程度あるかを比較しました。
結果
分析の結果、直接ケア・支援職が最も厳しい状況にありました。
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貧困率:9.6%(医師は0.9%)
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食料不安:24.5%(医師は4.3%)
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住宅不安定:13.6%(医師は3.1%)
つまり、4人に1人が十分な食事をとれず、7人に1人が家賃や公共料金を払えない状況です。
また、この層にはヒスパニック系や黒人などマイノリティが多く、職場構成の格差も示唆されました。統計的分析では、医師を基準とした場合、直接ケア・支援職の貧困リスクは約6倍、住宅不安定さのリスクは14倍に上昇していました。医療技術職でも住宅不安定さが4倍に増加していました。
結論
この研究は、医療従事者の中にも「生活の基盤が揺らいでいる人」が少なくないことを明確に示しました。特に患者と直接関わる職種ほど困難を抱えており、「医療の質を支える人々」が経済的に追い詰められている実態が浮かび上がっています。著者らは、こうした低賃金職への支援や構造的な改善が急務だと訴えています。
院長コメント(清澤眼科・清澤源弘)
医療の現場を支えるのは、医師だけではありません。看護師、視能訓練士、検査技師、受付スタッフなど、さまざまな職種の人たちがチームとして患者さんを支えています。
もし彼らが経済的な不安を抱えながら働いているとすれば、医療の質にも影響が出かねません。
日本でも「働き方改革」「処遇改善」は話題ですが、“生活の安定”こそが良い医療の土台です。
また、患者さん自身も、治療だけでなく生活背景ごと支える医療が求められています。眼科診療でも、視覚障害や慢性疾患を抱える方の「暮らし」を見つめることが重要です。
米国のこの報告は、「医療を支える人の生活を守ることが、医療そのものを守ること」だと教えてくれます。自由が丘清澤眼科でも、スタッフと患者さんの双方が安心できる環境づくりを心がけていきたいと思います。



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