米国および日本における毒蛇咬傷 ― 眼への影響も含めて
JAMA最新号(2025年10月号)に、米国における毒蛇咬傷(snakebite envenomation)の概論が掲載されました。この記事では、その要点をまとめたうえで、日本に生息する毒蛇の特徴と注意点、さらに毒蛇咬傷によって生じる視覚症状についても触れます。
1.米国における毒蛇咬傷の概論
米国では、毒蛇による咬傷は年間およそ7,500件発生し、そのうち死亡例は年間5~10件程度と報告されています。主な原因となるのは、
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ピットバイパー類(ガラガラヘビ〈Rattlesnake〉、カッパーヘッド〈Copperhead〉、コットンマウス〈Cottonmouth/Water Moccasin〉)
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コーラルスネーク(アメリカサンゴヘビ〈Coral snake〉)
の4系統です。これらはアラスカとハワイを除く全米に広く分布し、咬傷は春から秋にかけて多発します。
典型的な症状は、咬まれた部位の激痛・腫脹・水疱形成・内出血です。ピットバイパーの毒は血液凝固異常を引き起こし、全身出血やショックを伴うことがあります。一方、コーラルスネークは神経毒をもつため、症状が遅れて現れ、吐き気、筋力低下、呼吸障害などを生じることがあります。
初期対応としては、まず安全な場所に避難し、指輪などのアクセサリーを外し、石鹸と水で軽く洗うのが原則です。
禁忌は、「止血帯の強締め」「切開・吸引」「冷却」「民間療法」「捕獲した蛇を素手で扱う」などです。
抗蛇毒(抗毒素)療法は、症状が進行する前に早期投与することが推奨され、毒物コントロールセンターや専門医との連携が重要です。
予防策としては、長ズボン・長靴・厚手の靴下を着用し、草むらや倒木周囲を歩く際には地面を確認し、蛇を刺激しないことが大切です。ハイカーや屋外作業者への教育・訓練も効果的です。
致死例は少ないものの、壊死や手足の機能障害などの後遺症はしばしば残るため、早期受診と適切な治療が不可欠です。
2.日本に生息する毒蛇とその特徴・注意点
日本にもいくつかの毒蛇が生息しており、特に次の3種には注意が必要です。
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マムシ(Gloydius blomhoffii)
本州・四国・九州に分布。体色は灰褐色~赤褐色で、暗い斑模様が特徴。頭が三角形で、攻撃性が高い。腎障害や筋融解を伴う重症例もあり、抗マムシ毒素が有効です。 -
ハブ(Protobothrops flavoviridis)
沖縄・奄美地方に生息し、体長1メートルを超えることもあります。強い出血毒と組織壊死毒をもち、夜行性で民家近くにも出没します。島嶼部では特に警戒が必要です。 -
ヤマカガシ(Rhabdophis tigrinus)
本州全域に分布し、田畑や湿地に多く見られます。普段はおとなしいが、後牙に強い出血毒をもち、まれに重篤な出血を起こします。
咬まれた場合は、「切らない・吸わない・強く縛らない・蛇を追わない」ことが鉄則です。患部を動かさず、速やかに医療機関に搬送しましょう。抗毒素の投与判断が早いほど、後遺症のリスクを減らせます。
また、夜間の散歩や農作業では長靴・厚手の衣服で身を守ることが推奨されます。
3.毒蛇咬傷と視覚症状
世界的には、毒蛇の種類によっては視覚障害が生じることがあります。
コブラやサンゴヘビなど神経毒をもつ蛇に咬まれると、毒が神経伝達を妨げ、眼球運動障害(複視)や眼瞼下垂を起こすことがあります。
一方、マムシやハブなど出血毒をもつ蛇では、網膜出血や視力低下が見られることがあります。
これらは早期に抗毒素を投与し全身管理を行えば改善が期待できますが、放置すると失明に至ることもあるため、咬傷後はできるだけ早く医療機関を受診することが重要です。



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