セロトニン再取り込み阻害薬が「ビジュアルスノウ症候群」を引き起こす?
(Hannaa Bobat, David Healy ら/2025年11月7日オンライン発表)英国の著者からこの論文が発表されたことを伝えるメールを受け取りました。此処に紹介します。。
◎背景
「ビジュアルスノウ(Visual Snow)」とは、視界の中に砂嵐のような細かい点が絶えず見える症状です。テレビの「アナログノイズ」に似たこの現象が常に視野全体に広がり、明るい場所でも暗い場所でも、目を閉じても感じられるのが特徴です。さらに、残像(パリノプシア)、光への過敏(羞明)、暗いところで見えにくい(夜盲)などを伴う場合、「ビジュアルスノウ症候群(Visual Snow Syndrome:VSS)」と呼ばれます。
この病気の原因はまだ明確ではありませんが、脳の視覚処理の異常や神経伝達物質のバランスの乱れが関与していると考えられています。近年、一部の抗うつ薬、特に「セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI/SNRI)」の使用後にこの症状が出現したとの報告が増えています。
◎研究の目的
本研究の目的は、「セロトニン再取り込み阻害薬の使用がビジュアルスノウ症候群の発症と関連しているのか」を検証することでした。研究チームは、薬による副作用報告を集めた国際データベース(RxISK.org)を解析し、抗うつ薬とビジュアルスノウとの関連を調べました。
◎方法
研究は過去の症例報告を対象とした後ろ向き解析です。
世界中から寄せられた「抗うつ薬使用中に視覚異常が起きた」という報告の中で、ビジュアルスノウまたはVSSに該当するものを抽出しました。
それぞれの症例に「RxISKスコア」と呼ばれる因果関係評価を行い、
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スコア0〜4:情報不足
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5〜8:関連の可能性あり
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9以上:関連が強い可能性
と分類しました。
◎結果
計24症例が確認されました。男性16名、女性8名で、平均年齢は30歳でした。全員にビジュアルスノウがあり、そのうち10名(42%)は症候群の診断基準を満たしていました。
報告は8か国から寄せられ、関係した薬は10種類に及びました。
症状の出現時期を見ると、
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服用中に発症した人が14例(58%)、
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減量時が6例(25%)、
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中止後に出た人が4例(17%)でした。
驚くべきことに、92%の患者(22例)は薬を中止しても症状が消えず、むしろ悪化したり持続したままでした。
因果関係を示すRxISKスコアの平均は9.5で、強い関連を示唆しています。
◎結論
この結果は、セロトニン再取り込み阻害薬がビジュアルスノウやその症候群を引き起こす「きっかけ」になり得ることを示しています。しかも、症状は薬をやめても消えない場合が多く、むしろ離脱後に出現することもあります。
近年、世界中でSSRIやSNRIの使用が増えており、今後このような症例はさらに増える可能性があります。研究者たちは、どのようなメカニズムでこの症状が起こるのか、またどのような人がリスクを持つのかを明らかにするため、さらなる研究が必要だと強調しています。
◎清澤院長コメント
SSRI系抗うつ薬は「心の不調」に対して広く使われる安全な薬とされていますが、脳内のセロトニン神経系に作用するため、視覚野など他の神経活動に影響する可能性も指摘されています。
今回の報告は症例数は少ないものの、薬剤関連性を慎重に検討した点で重要です。うつ病や不安障害の治療中にビジュアルスノウ様の視覚異常が出た場合、自己判断で中止せず、必ず主治医に相談することが大切です。
このテーマは、今後の神経眼科・精神医学の交差領域で注目される課題になるでしょう。
出典:
Bobat H, Healy D, Lochhead J. Serotonin reuptake inhibiting antidepressants: A trigger for visual snow syndrome? J Psychopharmacol. First published online November 7, 2025. DOI: 10.1177/09246479251394585



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