新たに緑内障と診断された患者のケアの質 ― 非医療的要因はどこまで影響するのか?
緑内障は日本でも失明原因の上位に入る病気で、早期の診断と継続的な治療がとても重要です。しかし実際には、治療を続けることが難しかったり、推奨される眼圧まで十分に下がらない患者さんも少なくありません。今回紹介する研究は、「医療そのものではなく、患者さんを取り巻く生活環境や経済状況が、治療成績にどの程度影響するのか」という点に焦点を当てたものです。
■ 背景
過去の大規模調査では、黒人やラテン系などの特定の人種・民族に緑内障が多く、視力障害や失明に至る割合も高いことが知られていました。その差の背景には医療アクセスや生活環境など、多くの“非医療的”要因があると考えられています。緑内障ケアの質を高めるには、こうした要因を詳しく分析する必要があります。
■ 目的
この研究では、新たに原発性開放隅角緑内障(POAG)と診断された患者を対象に、
「経済状況や居住地、家庭環境などの非医療的要因が、治療の質にどれほど影響するか」
を明らかにすることを目的としました。
■ 方法
2010年から2022年の間に、米国の12の医療機関で緑内障と新しく診断された患者1466名を対象とした後ろ向きコホート研究です。
取り上げられた非医療的要因は
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資産(地域の富裕度による四分位)
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人種・民族
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都市/農村の別
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子どもの有無
など多岐にわたりました。
主要な評価項目は、初診から12〜18か月で
1)眼圧が15%以上低下しているか
2)フォローアップから脱落(LTFU)していないか
でした。
■ 結果
患者の平均年齢は70歳、女性が54%でした。
12〜18か月以内に受診を続けた1030名のうち、76%が目標である15%以上の眼圧低下を達成していました。
しかし非医療的な要因によって結果に大きな差が生じていました。
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資産の差が最も大きな影響
最も貧しい層の患者は、最も裕福な層と比べて
眼圧が十分下がる確率が5〜9倍低い
という非常に大きな格差がみられました。 -
フォローアップ脱落のリスクも経済状況と地域差で変化
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最も裕福な層では脱落率が61%低かった
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農村部の患者は都市部より脱落する可能性が5.5倍高い
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子どもの有無による違い
子どもがいる家庭の方が、平均して4mmHg多く眼圧が下がっていました。
家族のサポートが影響した可能性が示唆されます。
■ 結論
新しく緑内障と診断された患者では、
経済的に厳しい立場の人ほど、推奨される眼圧低下を達成できず、受診の継続も難しくなる
ことが示されました。
これは、緑内障治療の質向上には
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医療費の負担軽減
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地域格差の改善
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通院継続を支える仕組みづくり
が欠かせないことを強く示す結果になりました。
臨床医は治療法を決める際、患者さんの経済状況や生活環境も理解する必要があり、保険者や政策側も、フォローアップを支える仕組みを整えることが求められます。
出典
Mariam O. Eji, Dustin D. French, Azra S. Chaudhry, et al.
Quality of Care in Newly Diagnosed Glaucoma
JAMA Ophthalmology. Published online September 18, 2025.
doi:10.1001/jamaophthalmol.2025.2995
清澤のコメント
緑内障は「静かに進む病気」であり、治療を続けるかどうかで将来の視力が大きく変わります。今回の研究は、医療そのものよりも“生活の条件”が結果を左右するという、非常に重要な示唆を与えてくれました。日本でも独居高齢者や経済的に困難な方の治療継続が課題となっており、当院としても「通いやすさ」「費用の負担」「家族のサポート」を意識しながら診療にあたる必要性を改めて感じています。



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