高齢者医療は「専門家だけのもの」ではない
― すべての医師が備えるべき時代に ―
超高齢社会は、もはや将来の話ではなく、私たちの目の前にある現実です。眼科外来でも、70代、80代の患者さんが日常的に受診され、複数の持病や多くの内服薬を抱えている方も珍しくありません。こうした状況の中で、JAMA が2025年12月に報じた医療ニュースは、「高齢者を診る力は、老年医学の専門医だけでなく、すべての医師に必要である」という重要な問題提起をしています。
背景:高齢者を診る機会は増えているのに、教育が不足している
アメリカでは65歳以上が人口の約17%を占め、医療費の4割近くを使用しています。しかし、老年医学を専門とする医師は大きく不足しており、さらに深刻なのは、専門に進まない医師が高齢者医療を体系的に学ぶ機会そのものが減っている点です。医学部や研修医教育において、老年医学の必修実習は過去20年で明らかに減少しています。
その結果、転倒、せん妄、認知機能低下、多剤併用といった「高齢者特有の問題」を、十分な訓練を受けないまま診療現場で対応せざるを得ない医師が増えているのが現状です。
目的:すべての医師が高齢患者を安全に診られるようにする
この記事の目的は、老年医学専門医を増やすことだけではありません。むしろ、どの診療科に進んでも、高齢患者さんを適切に診られる基礎的な視点とスキルを全員が持つことが重要だとしています。
その鍵として注目されているのが、医療システム全体を「高齢者にやさしい構造」に変えていく取り組みです。薬の整理、意識や認知の評価、転倒や移動能力への配慮、そして「その人にとって何が一番大切か」を確認する姿勢を、個々の医師の善意に任せるのではなく、日常診療の流れに組み込むことが求められています。
眼科外来で高齢患者さんを診るときの具体的な注意点
眼科診療においても、高齢者特有の視点は非常に重要です。例えば、
・見えにくさの原因が眼の病気だけでなく、薬の副作用や全身状態に関係していないか
・検査説明を一度で理解できているか、聞き取りにくさや認知機能の低下はないか
・点眼薬の種類が多すぎて、正しく使えているか
・視力低下が転倒や外出控えにつながっていないか
こうした点に少し注意を向けるだけで、診療の質は大きく変わります。「目だけを見る」のではなく、「生活の中でその目がどう使われているか」を考えることが、高齢者眼科診療の基本になります。
清澤眼科としてのコメント:日本の医療現場に当てはめて
日本はアメリカ以上の超高齢社会です。老年医学を専門とする医師だけで、この現実に対応することは不可能です。眼科医を含め、すべての医師が高齢者医療の基本を共有する必要があります。
清澤眼科では、高齢の患者さんに対して、視力や眼底所見だけでなく、「日常生活で何に困っているのか」「転びやすくなっていないか」「点眼は無理なく続けられているか」といった点をできるだけ伺うようにしています。これは特別な医療ではなく、高齢者を診る時代の標準的な姿勢だと考えています。
結論:高齢者医療は、すべての診療の質を高める
JAMAの記事が伝えている結論は明快です。高齢者医療を特別扱いするのではなく、日常診療の質を高める共通基盤として位置づけるべきであるということです。
高齢の患者さんを安心して診られる力は、若い患者さんにとっても安全でやさしい医療につながります。これからの医療に求められるのは、「専門かどうか」ではなく、「高齢者を診る視点を持っているか」。眼科診療も、その例外ではありません。
出典
JAMA Medical News
Preparing All Physicians to Care for Older Adults
Online published December 19, 2025
doi:10.1001/jama.2025.22810



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