眼科医療経済等

[No.4357] 米国医学教育における神経多様性 ―「変わった人」を排除しない医師養成の意味―

米国医学教育における神経多様性「変わった人」を排除しない医師養成の意味

近年、米国の医学教育では人種や性別に加え、「神経多様性(neurodiversity)」への関心が高まっています。神経多様性とは、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、ディスレクシア(読字障害)など、脳の働きの個人差を「欠陥」ではなく多様性として捉える考え方です。本稿は、こうした神経多様性をもつ学生を、医学教育の中でどう評価し、どう支えるべきかを論じた視点論文です。

2015年に米国90医学部を対象に行われた調査では、医学生の約2.8%が何らかの障害を自己申告しており、その中にはADHDや学習障害が含まれていました。ただし、障害の申告は成績評価や臨床実習で不利になるのでは、という懸念から、実際に配慮を申請した学生は半数にとどまっていました。一方で、申請された配慮のうち、却下されたのはわずか2%であり、制度としては比較的柔軟に対応されている実態も示されています。

さらに2024年の卒業時調査では、障害を申告した学生の12%以上が、差別的な扱いを経験したと回答しました。その多くは教員やレジデント、同級生からの言動であり、神経多様性に対する理解不足が、教育現場に残っていることが明らかになっています。

著者は、神経多様性が必ずしも医学・科学の成功を妨げるものではないと強調します。たとえば、自閉スペクトラム傾向をもつ研究者は、観察力が鋭く、複雑なシステムを構造的に理解する能力に優れることがあり、科学分野で大きな力を発揮してきました。ディスレクシアの学生についても、適切な環境と支援があれば、大学・大学院、さらには医学校でも十分に成功し得ることが、長期追跡研究から示されています。

一方で、医科大学入試やMCAT(医学部入学試験)では、読解速度など特定の能力が過度に重視され、神経多様性をもつ優秀な人材が「門前払い」されている可能性も指摘されます。著者は、誰が選別の門番になっているのか、その基準は本当に妥当なのかを問い直す必要があると述べています。

結論として本論文は、神経多様性を「克服すべき障害」とみなす旧来の視点から、「異なる強みと視点をもたらす資質」と捉える視点への転換を提案しています。教育者と組織が文化を見直し、適切な配慮とメンタリングを行うことで、医学と科学に大きく貢献しうる人材を、不必要に排除しない教育環境が実現すると結んでいます。

清澤のコメント

責任ある立場に就く研究者や医師には、集中力や常識にとらわれない洞察が大きな力になります。医学部入学時に「変わった性格」を理由に排除しない姿勢は、むしろ医学全体にとって有益だと感じます。

出典

Arthur M. Feldman. Neurodiversity in US Medical Education. JAMA.
Online published January 8, 2026.
DOI: 10.1001/jama.2025.24892

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