米国医療保険に激震――メディケア・アドバンテージ支払い抑制が示す「医療費抑制時代」の現実
制度の全体像と生活への影響
2025年1月、米国の医療保険業界を揺るがす大きな政策提案が発表されました。高齢者医療を支える「メディケア・アドバンテージ」という制度に対し、国が保険会社へ支払う金額の伸びを、2027年にわずか0.09%に抑えるという内容です。これは事実上「ほぼ据え置き」に近い水準で、市場の予想(数%の引き上げ)を大きく下回りました。
メディケア・アドバンテージは、65歳以上の高齢者などを対象とした公的医療保険を、民間の保険会社が運営する仕組みです。通常のメディケアよりも、歯科診療、視力検査、眼鏡補助、フィットネス支援などの“おまけの給付”がつくことが多く、近年は加入者が急増していました。
しかし今回、政府は医療費膨張を抑えるため、保険会社側の請求の仕方に厳しいメスを入れました。特に問題視されたのが「アップコーディング」と呼ばれる手法で、診断名を重く付けることで国からの支払いを増やしていた点です。これにより、保険会社の収益構造が大きく揺らぐことになりました。
この発表を受け、米国最大の医療保険会社の株価は1日で2割前後も下落し、業界全体で日本円にして10兆円以上の企業価値が消えました。今後、保険会社は給付内容の見直しや、地域によっては事業撤退を迫られる可能性もあり、高齢者が医療機関や保険を選び直さなければならない事態も想定されています。
制度設計・医療経済の視点
今回の提案は、米国メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)が示した2027年支払い率案であり、実質的にはリスク調整モデルと診療記録審査の厳格化による大幅な収益圧縮を意味します。特に、特定の診療行為に紐づかない医療記録レビューをリスクスコア算定から除外する方針は、単独で約1.5ポイント分の削減効果を持つとされています。
これにより、ユナイテッドヘルスやヒューマナなどの大手保険会社は、すでに低マージン加入者の整理や、給付のスリム化を進めています。背景には、バイデン政権下で進んできた「価値に基づく医療(value-based care)」と財政規律強化の流れがあり、今回の提案はその延長線上にあると考えられます。
仮に最終決定で多少の緩和があったとしても、「給付拡大で加入者を増やす時代」は終わり、今後は
- 給付内容の厳選
- 地域別の選別的撤退
- 薬剤給付管理(PBM)やヘルステック分野へのM&A
といった構造変化が加速すると見られます。眼科領域で言えば、視力検査や眼鏡補助といった周辺給付が、まず見直しの対象になりやすい点は注目すべきでしょう。
清澤のコメント
米国では医療費と介護費の膨張を抑えるため、ついに「高齢者医療の中身」に本格的に手を入れ始めました。制度は違えど、国民医療費と介護費の増大に直面する日本でも、同様の引き締めが起こる可能性は十分にあります。給付が「あるのが当たり前」と思われている部分ほど、将来は見直しの対象になる――そんな時代に私たちは入りつつあるのかもしれません。



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