神経眼科

[No.4423] 人工知能(AI)はメンタルヘルス医療をどう変えるのか ― 期待と、見落としてはならないリスク ―

人工知能(AI)はメンタルヘルス医療をどう変えるのか

― 期待と、見落としてはならないリスク ― (米国医学会雑誌精神医学記事から)

近年、人工知能(AI)は医療の現場で急速に存在感を増しています。画像診断や業務効率化にとどまらず、精神医療の分野でも、AIチャットボットや診療支援システム、治療アプリなどが次々と登場しています。しかし、心の病を扱うメンタルヘルス医療は、人と人との関係性が極めて重要な領域です。AIの導入は本当に患者さんの利益につながるのでしょうか。

背景

精神疾患をもつ方々は、いまなお多くの困難に直面しています。専門医や心理療法へのアクセス不足、診断や治療のばらつき、治療効果の限界などです。AIは、こうした課題を解決する「切り札」として期待されていますが、技術が変革的であることが、そのまま医療の質の向上を意味するとは限りません。

目的

本論文(JAMA Psychiatry掲載)は、AIがメンタルヘルス医療にもたらす潜在的な利点と同時に、これまで十分に議論されてこなかったリスクや社会的影響を整理し、AIとどのように向き合うべきかを明らかにすることを目的としています。

方法

特定の臨床試験ではなく、既存の研究、実際の導入事例、政策や規制の動向を幅広く検討した総説論文です。AIチャットボット、臨床意思決定支援、業務自動化、社会的影響までを包括的に論じています。

結果

AIの利点として、認知行動療法などエビデンスに基づく治療へのアクセス拡大、治療選択の標準化、診療記録作成などの業務負担軽減が挙げられます。重症患者に人手を集中させられる可能性もあります。

一方で、重要なリスクも指摘されています。AIが「治療の第一関門」となり、人間の医療者にたどり着くまでの時間が延びる恐れ、AIへの依存による臨床判断力の低下、確率的に動作する大規模言語モデルが不適切な助言を行う危険性です。実際に、自殺や摂食障害に関して有害な応答をした事例も報告されています。さらに、孤独の増加、情報操作、雇用不安といった社会的影響にも注意が必要です。

結論

AIは、メンタルヘルス医療へのアクセスと効率を大きく改善する可能性を秘めていますが、その一方で、過度な自動化やコスト優先の運用は、患者さんにとって本来必要な人間のケアを損なう危険があります。著者は、透明性の確保、影響評価のための規制、そして医療者への教育と訓練が不可欠だと結論づけています。AIは「任せきり」にする存在ではなく、人間の医療を補完する道具として慎重に使われるべきだと強調されています。

清澤のコメント

眼科診療でもAI活用は進んでいますが、最終判断と患者さんとの対話は人間の医師にしかできません。メンタルヘルス医療ではなおさらで、AIは「代わり」ではなく「支え」として使われるべき技術だと感じます。

原典

Perlis RH. The Potential Transformation of Mental Health by Artificial Intelligence.

JAMA Psychiatry. Online published January 14, 2026.

doi: 10.1001/jamapsychiatry.2025.4116

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