神経眼科

[No.4471] 自閉スペクトラム症(ASD)とビジュアルスノウの患者が語る「見え方」は似ている

自閉スペクトラム症(ASD)の患者さんが語る「見え方」と、ビジュアルスノウ症候群(Visual Snow Syndrome:VSS)の患者さんが訴える見え方には、どこか共通する印象があります。では、この両者を直接比較した研究はあるのでしょうか。

まず、自閉スペクトラム症は神経発達症の一つで、対人コミュニケーションの特性やこだわり行動だけでなく、感覚の過敏さ・鈍麻が特徴として知られています。視覚に関しては、「光がまぶしすぎる」「模様がチラチラして見える」「動いていないものが揺れて見える感じがする」「細部が気になりすぎて全体がつかみにくい」といった訴えが報告されています。これは“感覚処理の偏り”あるいは“感覚過敏”として説明されることが多く、脳の情報処理の特性と考えられています。

一方、ビジュアルスノウ症候群は、視野全体に持続的な砂嵐状の細かなノイズが見える疾患で、残像、内視現象の増強、羞明、夜間視の困難などを伴います。近年の脳機能画像研究では、視覚野や視覚連合野の過活動、視床皮質ネットワークの調節異常などが示唆されており、「視覚情報のフィルタリング機能の低下」が仮説として挙げられています。

両者を直接比較した大規模研究は現時点ではほとんどありません。VSSは比較的新しく概念化された疾患であり、ASDとの系統的比較は十分に進んでいないのが現状です。ただし、いくつかの間接的な報告はあります。ASDでは視覚刺激に対する神経反応の増強や、局所情報処理優位(weak central coherence仮説)と呼ばれる特性が知られています。VSSでも視覚刺激に対する皮質の過興奮性や抑制機構の低下が示唆されており、「脳の視覚処理回路の調整異常」という点では共通項があります。

つまり、両者は診断カテゴリーとしては明確に異なります。ASDは発達期からみられる広範な神経発達特性であり、VSSは主として持続的な視覚ノイズを中核とする神経疾患です。しかし、「感覚入力をうまく取捨選択できない」「不要な視覚情報が強調されてしまう」「光や模様に過敏になる」といった主観的体験には重なりが見られる可能性があります。

興味深いのは、どちらも「目の検査では大きな異常が見つからないことが多い」という点です。問題は眼球そのものよりも、脳の情報処理の段階にあると考えられています。この意味で、両者は“中枢性視覚情報処理の特性”という広い枠組みで部分的に接点を持つと考えることができます。

ただし重要なのは、ASDの方すべてにビジュアルスノウがあるわけではなく、VSSの方が自閉症であるわけでもありません。両者は別個の疾患概念であり、安易に同一視することはできません。現時点での妥当なまとめは、「疾患としては異なるが、脳の視覚情報処理の特性という点で類似した主観的体験が生じる可能性がある」という表現になるでしょう。

今後、感覚処理や脳機能画像を用いた横断的研究が進めば、両者の共通点と相違点がより明確になる可能性があります。視覚の訴えを単なる“気のせい”とせず、脳の働きの個性として理解する姿勢が、患者さんへの適切な説明と支援につながるのではないかと私は考えています。

 

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