神経眼科

[No.4475] 後天性眼瞼下垂に対する新しい点眼治療 ――オキシメタゾリン0.1%という選択肢

後天性眼瞼下垂に対する新しい点眼治療 ――オキシメタゾリン0.1%という選択肢

日本眼科学会誌に、後天性眼瞼下垂に対するオキシメタゾリン0.1%点眼療法の治療指針が掲載されました。これまで眼瞼下垂の治療は手術が中心でしたが、点眼という「非侵襲的」な方法が正式に位置づけられたことは大きな変化です。今回はその内容を、患者さん向けに分かりやすく整理してご紹介します。


Ⅰ.緒言 ― 眼瞼はどうやって持ち上がっているのか

上まぶたは、動眼神経が支配する「上眼瞼挙筋」と、交感神経が支配する「Müller筋(ミュラー筋)」の2つの筋肉によって持ち上げられています。これらの筋肉や腱膜が弱くなると、まぶたが下がり、視野が狭くなったり、目の前が暗く感じたりします。無意識に眉を上げるため、肩こりや頭痛の原因になることもあります。

後天性眼瞼下垂の多くは、加齢や長期のコンタクトレンズ使用、白内障などの内眼手術後に起こる「腱膜性眼瞼下垂」です。一方で、重症筋無力症、動眼神経麻痺、Horner症候群など、神経の病気が原因の場合もあるため、診断は慎重に行う必要があります。


Ⅱ.治療の目的と作用機序

オキシメタゾリン0.1%点眼は、交感神経α1受容体に作用し、Müller筋を収縮させることで、まぶたを数ミリ持ち上げる効果が期待されます。つまり、筋肉や腱膜を手術で修復するのではなく、「薬の力で一時的に引き上げる」治療です。

米国ではすでに承認され、有効性と安全性が報告されています。日本でも承認され、専門医の管理下で使用されることになりました。切らずに試せるという点で、患者さんにとって大きな意味を持つ治療法です。


Ⅲ.下垂の評価

眼瞼下垂の評価には「MRD-1(Marginal Reflex Distance-1)」という指標を用います。これは角膜中央の反射点から上まぶた縁までの距離で、正常は3.5mm以上とされています。測定時には、前頭筋の代償を排除するため、額を軽く押さえて評価します。

重症度の目安は次の通りです。

・軽度(MRD-1:約2~3.5mm)

・中等度(約0~2mm)

・重度(0mm以下)

さらに、「目が開きにくい」「瞼が重い」「顎を上げないと見づらい」「眉を無意識に上げてしまう」「二重の幅が広がった」といった自覚症状も診断の重要な手がかりになります。


Ⅳ.適応

本点眼薬は、後天性眼瞼下垂の軽度から重度までが対象とされています。ただし、神経疾患や腫瘍など重大な疾患が疑われる場合には、まず原疾患の診断と治療が優先されます。

美容目的のみの使用や適応外使用は認められていません。また、18歳未満の小児に対する臨床試験は実施されていません。


Ⅴ.使用上の留意事項

オキシメタゾリンはα1受容体作動薬であるため、心血管系への影響に注意が必要です。特に次のような方は慎重な判断が求められます。

・高血圧や心疾患のある方

・モノアミン酸化酵素阻害薬を内服中の方

・閉塞隅角緑内障のある方

・妊娠中、授乳中の方

副作用としては、点状角膜炎、結膜充血、ドライアイ、霧視、眼痛、頭痛などが報告されています。効果が十分でない場合に漫然と使用を続けるのではなく、定期的な再評価が必要です。


Ⅵ.経過観察と今後の位置づけ

投与後は、まぶたの位置だけでなく、角膜の状態や眼圧などを含めた総合的な眼科的観察が重要です。効果が不十分な場合や副作用が出現した場合は中止し、他の治療法を検討します。

この点眼は「切らずに治す」選択肢として有用ですが、すべての患者さんに十分な効果が得られるわけではありません。症状や生活への影響の程度に応じて、治療方針を柔軟に考えることが大切です。


出典

石川均,渡辺彰英:後天性眼瞼下垂に対するoxymetazoline(0.1%)点眼療法に関する治療指針.日本眼科学会誌.


眼科医 清澤のコメント

オキシメタゾリン点眼は、外来で試みられる新しい治療選択肢として期待されます。ただし、点眼で十分な改善が得られない場合や、日常生活に支障が残る場合には、眼瞼下垂手術を得意とする医師への紹介を行い、手術治療を検討することも重要です。患者さんそれぞれの状態とご希望を踏まえ、最適な治療法を一緒に考えていきたいと思います。

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