TMSと眼球運動解析で迫るVisual Snow Syndromeの客観的評価
―フォスフェンマッピングが示す知覚‐運動ネットワークの不均衡―
Visual Snow Syndrome(VSS)は、視野全体にテレビの砂嵐のような微細なノイズが持続して見える神経疾患です。通常の眼科検査では明らかな異常が見つからないことが多く、診断は患者さんの自覚症状に依存しています。病態としては後頭葉皮質の過興奮性が有力視され、fMRIやPETでの舌状回・楔部の代謝亢進、EEGでの後頭葉α波異常やγ帯域増強などが報告されていますが、これらは相関的所見にとどまり、因果的な検証は十分ではありませんでした。
今回取り上げるのは、Akinshinらによる “TMS-evoked phosphenes and oculomotor responses in visual-snow syndrome.”(doi:10.64898/2026.02.05.26344851, 2026)というプレプリント論文です。なお本研究は査読前であり、現時点で臨床指針とする段階にはありません。
本研究では、Transcranial Magnetic Stimulation(TMS)を用いて後頭葉皮質を単発刺激し、誘発されるフォスフェン(外界刺激なしに知覚される閃光)の空間分布をマッピングすると同時に、高解像度の眼球運動解析を行いました。対象はVSS患者4名と年齢を一致させた健常対照8名です。MRIナビゲーション下で後頭葉を刺激し、被験者は刺激後にフォスフェンの位置をデジタルタブレット上に記録しました。眼球運動は120HzのTobii眼球追跡装置で連続測定され、プロサッカード課題および刺激後のサッカード速度が解析されました。
結果として、VSS群ではフォスフェンの知覚分布が健常者よりも空間的に拡散しており、集中したパターンを示しませんでした。また、プロサッカード潜時はVSS群で有意に短縮しており、反射的眼球運動の亢進が示唆されました。一方で、刺激後のサッカード速度はVSS群で著明に低下していました。すなわち、「感覚系は過敏だが、運動出力は抑制的」という知覚‐運動系のアンバランスが示唆されたことになります。
TMSによるフォスフェンマッピングと眼球運動解析を統合することで、後頭葉皮質の興奮性異常と知覚‐運動ネットワークの不均衡を客観的に捉え得る可能性が示されました。本研究は、VSSを単なる視覚皮質過興奮としてではなく、視覚・注意・視床皮質ネットワークの統合障害として理解する視点を補強する内容といえます。
VSSは「検査で異常が出ない」ために患者さんが孤立しやすい疾患です。症例数は少なく、査読前という制約はありますが、主観症状を客観指標へ変換しようとする試み、そして知覚と眼球運動を統合して評価するアプローチは大きな意義を持ちます。将来的には診断補助指標の確立、治療介入効果の客観評価、神経調節療法の標的選定につながる可能性があります。今後の査読論文化と症例の蓄積を慎重に見守りたいと思います。
出典:Akinshin R, et al. TMS-evoked phosphenes and oculomotor responses in visual-snow syndrome. 2026. doi:10.64898/2026.02.05.26344851(preprint)
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