肥満とがん ― 体重増加ががん発症に関係する理由とは ―
近年、世界中で肥満人口が急速に増加しています。肥満は糖尿病や高血圧などの生活習慣病と関係することがよく知られていますが、実は「がんの発症」とも密接に関係していることが多くの研究から明らかになってきました。2026年に医学雑誌に掲載された総説では、肥満とがんの関係について、現在わかっている科学的知見がまとめられています。
まず背景として、肥満とは体格指数(BMI)が30以上、過体重とは25以上30未満と定義されます。米国では新しく診断されるがんの約10%が過体重や肥満と関連すると考えられています。特に子宮内膜がんや肝臓・胆道のがんなどでは、患者の最大半数が肥満と関連している可能性があるとされています。さらに肥満人口は世界的に増加しており、2030年には米国の成人の約半数が肥満になると予測されています。世界全体でも2035年までに40億人以上、つまり人口の半数以上が過体重または肥満になる可能性があるとされています。こうした状況の中で、肥満ががんの発生をどのように促進するのかを理解することは非常に重要な課題となっています。
この論文の目的は、肥満がどのような仕組みでがんの発生を促すのかという生物学的なメカニズムを整理し、さらに体重減少などの対策ががんのリスク低下に役立つかどうかを検討することにあります。
研究方法としては、肥満とがんの関係を調べたこれまでの多くの研究結果を整理する「レビュー研究」が行われました。臨床研究や疫学研究、さらには動物実験などの結果を総合的に検討し、肥満がどのように体内の環境を変化させてがんの発生につながるのかがまとめられています。また、肥満手術や体重減少薬などによって体重が減った場合にがんの発生率が変化するかどうかについても検討されています。
その結果、肥満ががんを引き起こす可能性にはいくつかの重要な仕組みがあることがわかっています。まず、肥満では脂肪組織が過剰に蓄積します。脂肪細胞は単なるエネルギーの貯蔵庫ではなく、さまざまなホルモンや炎症物質を作り出す臓器のような働きをしています。肥満になると脂肪組織の機能が乱れ、炎症を引き起こす物質(サイトカイン)やホルモンが増えます。これらの物質は体の中で慢性的な炎症状態をつくり出し、細胞のDNAに損傷を与えたり、細胞の増殖を促したりすることでがんの発生を助けてしまう可能性があります。
さらに肥満では女性ホルモンであるエストロゲンや食欲関連ホルモンのレプチンが増え、逆に抗炎症作用を持つアディポネクチンが減少することも知られています。こうしたホルモンの変化は、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がんなどのホルモンに影響を受けやすいがんの発生を促すと考えられています。
また、肥満では免疫の働きも弱くなることが報告されています。本来ならば体の免疫細胞が異常な細胞を見つけて排除しますが、肥満ではこの仕組みがうまく働かなくなるため、がん細胞が生き残りやすくなると考えられています。
さらに最近注目されているのが腸内細菌の変化です。肥満では腸内の細菌の種類が変わり、炎症を促す細菌が増えたり、健康に関係する細菌が減ったりすることがあります。この腸内環境の変化も、がんの発生に関係する可能性が指摘されています。
では体重を減らせばがんのリスクは下がるのでしょうか。観察研究では、肥満手術によって体重が10%以上減少した人や、GLP-1受容体作動薬などの体重減少薬を使用した人では、肥満関連がんの発生率がわずかに低下する傾向がみられました。ただし減少幅は大きくなく、絶対的な減少率は0.02%から0.5%程度と報告されています。それでも、体重減少によって炎症やホルモンの異常が改善されることで、がんの発生リスクをある程度下げる可能性があると考えられています。
以上のことから、このレビューでは、過体重や肥満はがん発症率の上昇と関連しており、米国では新規がんの約10%に関係している可能性があると結論づけています。そして、体重減少は肥満に伴う体内の異常を改善し、がんのリスク低下に役立つ可能性があるとされています。特に、がん予防の観点からは体重の10%以上の減量が必要になる場合があると考えられています。
出典
Shen S, Brown CA, Green AK, et al. Obesity and Cancer: Translational Science Review. JAMA. Published online March 9, 2026. doi:10.1001/jama.2026.1114
清澤のコメント
肥満が糖尿病や心臓病の原因になることはよく知られていますが、がんの発生にも深く関係することが改めて示されています。最近はGLP-1作動薬などによる体重減少治療も広がっていますが、体重管理は単なる美容や体型の問題ではなく、将来の病気を予防する重要な医学的課題です。眼科の立場から見ても、肥満は糖尿病網膜症や緑内障など多くの眼疾患のリスクにも関係します。体重管理は全身の健康だけでなく、目の健康を守るうえでも大切な生活習慣と言えるでしょう。



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