ぶどう膜炎

[No.2875] ベーチェット病

ベーチェット病とは

ベーチェット病(ベーチェット症候群)は、全身に炎症を引き起こす自己免疫疾患であり、特に目にも影響を及ぼすことがよくあります。ここでは、ベーチェット病の眼症状とその診断、原因、治療法、そして裂孔原性網膜剥離との関連について説明します。

  1. 眼症状

ベーチェット病の眼症状は主にぶどう膜炎(前部、中部、後部)、網膜血管炎などです。これらは視力の低下や視野欠損を引き起こすことがあり、急性の炎症エピソードと寛解を繰り返すことが多いです。以下の症状が典型的です:

  • 視力の低下
  • 目の痛み、赤み
  • 目のかすみや光に敏感になる(羞明)
  • 飛蚊症(視界に浮遊物が見える)
  • 網膜の炎症による視野欠損
  1. 診断時の所見

診断では、眼科検査と全身症状の評価が重要です。眼症状が進行する前に、口内炎や皮膚症状、外陰部潰瘍、関節痛などの全身症状が現れることがあります。眼科所見としては:

  • 前部ぶどう膜炎による角膜の沈着物(KPkeratic precipitates
  • 瞳孔後の房水混濁(細胞浮遊)
  • 網膜血管の炎症
  • 視神経の腫れや異常
  • 網膜の浮腫や出血

蛍光眼底造影(FA)や光干渉断層計(OCTを用いて、網膜血管の炎症や浮腫、視神経の異常を観察することが多いです。

  1. 原因

ベーチェット病の明確な原因は不明ですが、免疫系の異常反応が関与しているとされています。特に、HLA-B51という遺伝的要因が疾患の発症に関与していることが知られています。また、環境要因や感染が免疫反応を引き起こす可能性が示唆されています。

  1. 治療法

治療の目的は炎症を抑え、視力を保護することです。以下のような治療が行われます:

  • コルチコステロイド(ステロイド):炎症を抑えるための局所および全身投与
  • 免疫抑制剤:アザチオプリン、シクロスポリン、メトトレキサートなどが使用されます
  • 生物学的製剤:抗TNF-α薬(インフリキシマブなど)が使用されることがあり、難治性の眼炎症に効果があります
  • 抗血管新生療法:網膜血管炎による合併症には抗血管新生薬が考慮されることがあります
  1. 裂孔原性網膜剥離との関連

ベーチェット病自体が裂孔原性網膜剥離の直接的な原因になることはまれです。しかし、ベーチェット病に伴う強い炎症や網膜の脆弱化、血管炎による網膜の虚血や浮腫が重度の場合、網膜剥離のリスクが増加する可能性はあります。裂孔原性網膜剥離とは異なり、ベーチェット病による網膜の異常は炎症によるものであり、基本的には治療による管理が可能です。

清澤の追記1:ベーチェット病と細菌感染に関連した学説:

ベーチェット病と細菌感染の免疫学的な説明の学説。
ChatG1.

ベーチェット病患者は、特定の微生物に対する免疫応答が異常に強いという報告があります。細菌やウイルス、特にヘルペスウイルス溶連菌マイコプラズマなどに感染すると、通常よりも強い免疫反応が引き起こされ、それが慢性的な炎症を誘発することが示唆されています。このような免疫過敏性が、ベーチェット病の特徴である血管炎や全身の炎症を引き起こす可能性があります。

2. 分子模倣説

「分子模倣」(molecular mimicry)とは、病原体が人間の自己抗原と類似した構造を持っているため、病原体に対する免疫反応が誤って自己組織を攻撃してしまうという理論です。ベーチェット病の患者では、特定の細菌の成分が自己抗原と類似しており、それが免疫反応を引き起こし、炎症や血管炎を促進する可能性があると考えられています。特に、ヘリコバクター・ピロリ溶連菌のような病原体が注目されています。

3. 腸内細菌との関連

ベーチェット病と腸内細菌のバランス異常(ディスバイオーシス)との関連も研究されています。腸内細菌は免疫系の調整に大きな役割を果たしており、腸内細菌の異常な構成が免疫系に悪影響を及ぼし、ベーチェット病の発症や悪化に寄与している可能性があります。腸内細菌の研究はまだ進行中ですが、特定の細菌の過剰や欠乏が炎症反応に影響を与えていることが示されています。

4. HLA-B51と免疫応答の関係

ベーチェット病は、遺伝的にHLA-B51という抗原との関連が強いことが知られています。HLA-B51を持つ患者は、感染症に対する免疫応答が異常である可能性があり、特定の細菌やウイルスに対する過剰な免疫反応が引き起こされ、それが慢性的な炎症や血管炎を促進しているという仮説が立てられています。このHLA-B51の免疫系への影響が、細菌感染とベーチェット病の関連性を説明する一部と考えられます。

5. 口腔内細菌との関係

ベーチェット病の患者は、口腔アフタ(口内炎のような潰瘍)を繰り返し発症することが知られていますが、この症状は口腔内の細菌が関与している可能性があります。特に、口腔内のStreptococcus sanguinisPorphyromonas gingivalisなどの細菌が、異常な免疫応答を引き起こして炎症を誘発し、アフタや全身症状を引き起こすことが示唆されています。

まとめ

細菌感染とベーチェット病の関連性に関する免疫学的な説としては、特定の細菌に対する過剰な免疫反応、分子模倣説、腸内細菌のバランス異常、HLA-B51の関連性、口腔内細菌との関係が挙げられます。これらの仮説は、ベーチェット病の発症メカニズムを理解するための重要な手がかりを提供していますが、さらなる研究が必要とされています。

  ーーーーーー

清澤追記2:Dermatology(皮膚科)では次のように記載しています。:

Volume 31, Issue 4p352-3612013年7-8月

ベーチェット症候群:事実と論争

要約

ベーチェット症候群は、静脈と動脈の両方に影響を与える小血管と大血管の全身性血管炎です。ベーチェット症候群のほとんどすべての患者は、再発性口腔アフタを患っており、続いて性器潰瘍、結節性紅斑や丘疹性病変などのさまざまな皮膚病変、関節炎、ブドウ膜炎、血栓性静脈炎、胃腸および中枢神経系の関与が続きます。最近の疫学研究は、その病因において遺伝的要因が環境要因よりも重要であることを示唆しています。欧州リウマチ連盟のガイドラインは、最近、ベーチェット症候群の治療について発表されました。これらは皮膚粘膜、眼、関節の病変の管理に非常に有用ですが、血管、神経、および胃腸の病変の治療は、これらの症状に対する対照研究がないため、依然として問題があります。この寄稿は、疫学、粘膜皮膚症状、診断基準、および生物学的製剤を含むエビデンスに基づく治療法に取り組んでいます。
メルマガ登録
 

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。