近視矯正手術とドライアイ ― 米軍退役時健診の現場から見えてくる長期的影響 ―
私は現在、米国退役軍人省(VA(米国退役軍人省))の指定を受け、日本国内で米軍退役時の眼科健康評価を行っています。これは、軍務中に生じた健康問題を医学的に評価するための制度で、眼科については英語での評価書作成が可能な眼科医が担当します。こうした立場から診療を続ける中で、近年とくに印象的なのが、近視矯正手術後にドライアイ症状を訴える退役軍人が少なくないという点です。
米軍では、近視矯正手術が基地内医療施設で、米政府の負担により行われてきました。そのため、手術に関連して生じた後遺症については、国として評価・補償の対象となります。こうした背景を踏まえると、近視矯正手術の種類と、それぞれに伴うドライアイ症状の特徴を整理して理解することは重要です。
近視矯正手術にはいくつかの世代があります。最も古いものが放射状角膜切開術(RK)です。角膜に放射状の切開を入れて形状を変える方法で、現在はほぼ行われていませんが、角膜への侵襲が大きく、角膜の不安定化や長期的な乾燥感を残す例が少なくありません。
次に登場したのがPRKやLASEKなどの表層レーザー手術です。角膜表層を処理してレーザー照射を行うため、術後の痛みや回復に時間はかかるものの、角膜深部の神経損傷は比較的限定的で、ドライアイは中等度にとどまる傾向があります。
その後広く普及したのがレーシック(LASIK)です。角膜にフラップを作成し、その下をレーザーで削るため、視力回復が早い一方、角膜神経を広範囲に切断しやすく、術後ドライアイが最も問題になりやすい術式とされています。退役軍人の自己申告でも、この世代の手術後に乾燥感や異物感が長く続く例が目立ちます。
比較的新しい術式がスマイル(SMILE)です。小切開から角膜実質内の組織を取り出す方法で、フラップを作らないため、一般にレーシックより角膜神経の損傷は少なく、ドライアイ症状も軽め、かつ短期間で落ち着くことが多いとされています。
さらに近年は、有水晶体眼内レンズ(ICL)による近視矯正も行われています。角膜を削らないため神経損傷は最小限ですが、強度近視やコンタクトレンズ長期使用者が対象となることが多く、術前からドライアイの素因を持つ方が少なくありません。
近視矯正手術後のドライアイは、単なる涙液量の低下だけでなく、角膜神経障害による感覚異常、涙液層の不安定化、軽度の慢性炎症が複合して生じます。そのため、所見が軽くても強い不快感を訴えることがあり、自己申告と検査結果が必ずしも一致しない点が特徴です。
米軍退役時健診の現場から見えてくるのは、近視矯正手術が視力の質を大きく改善する一方で、長期的にはドライアイという形で影響が残る可能性がある医療行為だという現実です。この視点は、日本で近視矯正手術を検討する方々にとっても、ぜひ知っておいていただきたい点だと感じています。



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