白内障

[No.4365] 「目は脳と全身の健康を映す窓 ― AI時代の眼科医療が切り開く未来 ―」:記事紹介

「目は脳と全身の健康を映す窓 ― AI時代の眼科医療が切り開く未来 ―」

近年、人工知能(AI)の進歩によって、私たちの「目」がこれまで以上に多くの健康情報を語ってくれる存在になりつつあります。今回紹介するのは、JAMAおよびJAMA+AIのポッドキャストで行われた、セシリア・リー博士へのインタビューです。リー博士は、**ワシントン大学セントルイス校**の眼科・視覚科学教授であり、網膜疾患の臨床医であると同時に、AIとビッグデータを用いた先進的研究を牽引する研究者でもあります。


要点

リー博士の研究の中心にある概念は「オキュロミクス(Oculomics)」です。これは、眼を全身や脳の健康を映し出す“窓”として活用する考え方です。眼は発生学的に脳の一部であり、網膜は脳と同じ神経組織から成り立っています。そのため、網膜の神経や血管を詳しく観察することで、脳や全身の状態について多くの情報が得られる可能性があります。

特に注目されているのが、眼底写真やOCT(光干渉断層計)などの網膜画像です。これらは短時間・非侵襲的に撮影でき、しかも毛細血管レベルまで詳細な情報を含んでいます。AIを用いてこれらの画像を解析すると、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患のリスク、さらには将来の健康状態まで予測できる可能性があるといいます。

一方で、課題も少なくありません。最大の問題の一つは、画像データの「標準化」です。医療機関や機器ごとに画像形式や保存方法が異なり、データを横断的に活用しにくい現状があります。また、AIモデルを公平で信頼できるものにするためには、人種や年齢、疾患背景などを含めた多様な集団のデータが不可欠です。特定の集団だけで作られたAIは、他の集団では正しく機能しない恐れがあります。

こうした課題に対し、リー博士が関わっているのが「AI Ready(AIレディ)」プロジェクトです。これは、2型糖尿病を中心に、AI解析に適した高品質かつ多様性を備えた大規模データセットを構築する国家的研究プログラムです。約2200人分、4テラバイトに及ぶデータが公開され、厳格な倫理的配慮とプライバシー保護のもとで研究者に提供されています。

さらに博士が強い関心を寄せているのが、アルツハイマー病や認知症の早期発見です。進行中の前向きコホート研究では、認知機能が正常な高齢者を長期間追跡し、網膜画像と認知機能の変化を結びつけて解析しています。これにより、「いつ」「どの段階で」網膜に変化が現れるのかを明らかにし、将来の早期診断につなげることが期待されています。

リー博士は最後に、「この分野は一人の専門家では成し遂げられない」と強調します。眼科医、神経内科医、データサイエンティスト、倫理学者など、多分野の協力によって初めて、目と全身疾患の隠れたつながりが解き明かされるのです。AI時代の眼科医療は、視力を守るだけでなく、健康と老化そのものを理解する鍵になろうとしています。


眼科医・清澤のコメント

眼科検査で日常的に撮影している網膜画像が、将来の認知症や心血管疾患の予測に役立つ時代が現実味を帯びてきました。眼科は「目だけを見る診療科」から、全身の健康を支える入口へと進化しつつあると感じます。


※出典:JAMA / JAMA+ AI ポッドキャスト

(JAMA Network Audio, インタビュー:セシリア・リー博士)

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