眼輪筋切除術について:重症の原発性眼瞼痙攣に対する最後の選択肢
原発性眼瞼痙攣(がんけんけいれん)は、意思とは関係なくまぶたが強く閉じてしまう病気です。軽症から中等症であれば、ボトックス注射が現在の標準的な治療として広く行われています。しかし、ごく一部の患者さんでは、ボトックスでも十分な効果が得られない場合があります。そのような重症例に対して検討される外科的治療のひとつが 眼輪筋切除術(がんりんきんせつじょじゅつ) です。今回はこの治療について、わかりやすくご説明いたします。
眼輪筋切除術とは
まぶたを閉じる力を担っている「眼輪筋」という筋肉の一部を手術で取り除く方法です。特にけいれんが強く出ている上まぶたや下まぶたの外側部分の筋肉を中心に切除します。これによって、まぶたが勝手に閉じる力を弱め、患者さんの視界を確保することを目的とします。
手術の主な流れ
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局所麻酔で行われることが多く、全身麻酔が必要な場合もあります。
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上まぶた、下まぶたの皮膚を切開し、眼輪筋の一部を取り除きます。
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必要に応じて眼瞼挙筋(まぶたを開ける筋肉)や皮膚の調整も行います。
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最後にまぶたを縫合し、1〜2週間で抜糸となります。
眼輪筋切除術の利点
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強いけいれんの改善:ボトックスで効果が不十分な場合にも、視界を開ける効果が期待できます。
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効果が比較的長期に持続:ボトックスのように数か月ごとの追加治療が不要になる場合があります。
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生活の質(QOL)の改善:外出や読書、運転など、日常生活がしやすくなる可能性があります。
手術の短所・リスク
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まぶたの形の変化:筋肉を取り除くため、目の開き方やまぶたの形が変わることがあります。
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完全には治らない場合がある:けいれんが再発したり、十分に改善しないこともあります。
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目の乾き(ドライアイ)の悪化:まばたきの機能が弱まり、涙が目に行き渡りにくくなることがあります。
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**感染や出血、瘢痕(きずあと)**など、外科手術に伴う一般的なリスクがあります。
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可逆性が低い:ボトックスと違い「やめる」ことはできず、切除した筋肉は元に戻りません。
当院の考え方
私は眼瞼痙攣に対して、まず第一にボトックス注射による治療を行っています。これは効果が高く、安全性が確立されているためです。眼輪筋切除術はあくまで「最後の選択肢」と考えています。ボトックスで十分な効果が得られない場合や、副作用で継続できない場合にのみそれを目的とした紹介を検討する治療法です。
まとめ
眼輪筋切除術は、重症の原発性眼瞼痙攣に対して有効な外科的治療のひとつですが、利点とともにリスクや限界もあります。患者さん一人ひとりの症状や生活状況に応じて、慎重に検討されるべき治療法です。まずはボトックス注射による治療を基本とし、それでも改善が得られないときに外科的治療を選択する、というのが一般的な流れです。
患者さんへのメッセージ
「手術」という言葉を聞くと不安を感じられるかもしれません。しかし、眼輪筋切除術はあくまで“最後の切り札”として存在している治療法です。多くの方はボトックス治療で改善が得られますので、まずはそれを安心して継続いただき、もし難しい場合に次の選択肢として検討していただければと思います。
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