論文紹介:病変によって起こる眼瞼けいれん ― 有病率と臨床的特徴
題名
Lesion-Induced Blepharospasm: Epidemiology and Clinical Characteristics
著者
Elina Myller, Rolle Halonen, Daniel T. Corp, Juho Joutsa
(トゥルク大学医学部・Brain and Mind Center, フィンランド)
① 背景
眼瞼けいれん(blepharospasm)は、目の周りの筋肉が過剰に収縮してまぶたが閉じてしまう病気です。多くは原因不明(特発性)とされますが、脳の病変(脳梗塞、腫瘍、外傷など)が原因となる「病変性眼瞼けいれん」も知られています。ただし、これまでは非常に稀とされ、全患者の0.4~1.6%程度と報告されてきました。その根拠は少数例の報告に限られ、さらに画像検査を行わず見逃されてきた可能性もありました。
② 目的
この研究は、病変が原因で生じる眼瞼けいれんの有病率と臨床的特徴を、住民ベースで正確に調べることを目的としました。特に「典型的な眼瞼けいれん」との違いを明らかにし、どの患者に脳の画像検査が必要かを検討しています。
③ 方法
研究はフィンランド・トゥルク大学病院で1996年から2022年にかけて行われました。
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電子カルテから原因不明の眼瞼けいれん患者を抽出
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脳画像検査の結果や臨床経過を詳細に再評価
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文献データと照らし合わせて「病変性かどうか」を判定
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また地域人口に基づいて有病率・年間発症率を算出しました。
④ 結果
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対象は57人の患者
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そのうち**4人(7.0%)**が病変性と診断されました
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人口ベースでは
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有病率:100万人あたり2.5人
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年間発症率:100万人あたり0.3人
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病変性の患者は全員に「非典型的な特徴」がありました。
例えば、症状が左右非対称に出たり、他の神経症状を伴ったりと、通常の眼瞼けいれんとは異なる所見を示しました。 -
これらの特徴は特発性眼瞼けいれん患者に比べて有意に多く見られました。
⑤ 結論
従来考えられていたよりも、病変性眼瞼けいれんは頻度が高いことが分かりました。ただし全例に非典型的特徴があるため、典型的な眼瞼けいれんの患者全員に脳画像検査を行う必要はなく、非典型例に絞ればよいという臨床的示唆が得られました。
◎ まとめ(患者さんへのメッセージ)
眼瞼けいれんは多くの場合「原因不明の病気」であり、ボトックス注射などの治療で改善が期待できます。しかし、ごく一部には脳の病気が背景にあるケースがあります。その場合は、症状が通常と違う「非典型的」な特徴を示すことが多いのです。今回の研究は、医師が「どのような場合に脳の検査を考えるべきか」という指針を与えるものであり、患者さんにとっても安心材料になると思います。
出典
Myller E, Halonen R, Corp DT, Joutsa J. Lesion-Induced Blepharospasm: Epidemiology and Clinical Characteristics. Tremor and Other Hyperkinetic Movements. 2025;15(1):25. DOI: 10.5334/tohm.1025
清澤のコメント:
眼瞼けいれんの診療では「脳の病気が隠れていないか?」と心配される方がいます。この研究は、非典型例に絞って画像検査をすれば十分だと示しており、検査の必要性を判断する上で大変参考になります。
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