眼瞼痙攣は「まぶたの病気」だけではない
― 運動・感覚・こころの症状を一体として理解する ―
眼瞼痙攣という病気は、「まぶたが勝手に閉じてしまう」「目を開けていられない」といった運動症状が最も目立つため、長い間、まぶたの筋肉の異常として説明されてきました。しかし実際の診療では、それだけでは説明しきれない多様なつらさを患者さんが抱えていることを私たちは日々経験します。強いまぶしさや光への過敏さ、目の不快感、そして不安や気分の落ち込みといった精神的な症状が同時に存在することも少なくありません。
今回紹介する研究は、こうした臨床現場での実感を統計学的に整理し、眼瞼痙攣は運動症状だけの病気ではなく、精神症状を含む多面的な病態であることを明確に示したものです。
背景
特発性眼瞼痙攣では、症状の現れ方に大きな個人差があります。ある人はまぶたの痙攣が主症状であり、別の人はまぶしさや不快感が強く、また別の人では不安感や抑うつといった精神的なつらさが前面に出ることもあります。しかし、これらの症状がどのような構造をもって共存しているのかについては、これまで十分に整理されていませんでした。
目的
本研究の目的は、特発性眼瞼痙攣にみられる症状を、運動症状と精神・心理的症状の両面から評価し、それらがどのような因子構造を持ち、どのような患者群に分かれるのかを明らかにすることです。
方法
研究では、特発性眼瞼痙攣と診断された患者さんを対象に、まぶたの痙攣の重症度や頻度といった運動症状の評価に加え、不安や抑うつ、生活の質への影響を評価する質問票を用いてデータを収集しました。得られたデータに対して因子解析を行い、症状同士の関連性を整理したうえで、クラスタリング解析により、似た特徴をもつ患者さんのグループ分けを行いました。
結果
解析の結果、眼瞼痙攣の症状は一つの軸では説明できず、運動症状を中心とする因子と、精神・心理的症状を中心とする因子が比較的独立して存在することが示されました。さらに患者さんは、運動症状が強い群、精神症状が強い群、そして両者が重なって強く現れる群など、複数のクラスターに分類されました。これは、同じ「眼瞼痙攣」という診断名であっても、病気の姿が人によって大きく異なることを意味しています。
結論
本研究は、眼瞼痙攣を「まぶたの異常運動」という一面的な病気として捉えるのではなく、運動症状、感覚過敏、精神症状が組み合わさった多面的な病態として理解する必要があることを示しています。治療においても、痙攣そのものだけでなく、まぶしさや不安、気分の落ち込みといった側面に目を向けることが、患者さんの生活の質を改善するうえで重要であると考えられます。
出典
Gigante AF, Hallett M, Jinnah HA, et al.
Factor analysis and clustering of motor and psychiatric dimensions in idiopathic blepharospasm.
Parkinsonism & Related Disorders.
2025; 131:107241.
Published February 2025.
清澤の短いコメント
眼瞼痙攣を「目を閉じる運動症状」「羞明などの感覚過敏」「気分の落ち込みを含む精神症状」という三つの側面から評価することは、日常診療で強く実感するところです。本研究は、その見方が主観的な印象ではなく、統計学的にも裏付けられることを示しています。症状のどこが一番つらいのかを共有しながら治療を考えることが、眼瞼痙攣診療の質を高める鍵だと感じます。



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